【著者に訊け】長岡弘樹氏/『教場2』/小学館/1500円+税
累計40万部突破のロングセラー『傍聞き』(2008年)に火がついたのは、単行本刊行から3年後に文庫化され、書評誌『本の雑誌』の推す文庫第1位に輝いてから。また2013年の話題作『教場』でも、作者を離れて独り歩きする読者の支持が、長岡弘樹作品の真価を物語る。
「正直、僕も戸惑っています。決して後味がいいとは言えない話が、こんなに読まれるなんて(笑い)」
当然続編を期待する声は多く、『教場2』は誕生するに至った。舞台は前作同様、とある県警所属の警察学校。〈風間公親〉率いる通称・風間教場には過去や職歴も様々な生徒が集い、過酷な訓練に日々明け暮れていた。
既に巡査の身分や警察手帳も持つ彼らは、男女共に寮生活を送り、その一挙手一投足を監視下に置かれている。何しろ警察学校とは〈必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩(ふるい)〉であり、白髪隻眼の鬼教官・風間の観察眼は名探偵のように容赦がない。
「正直、続編は無理だと思っていたんです。僕は1話に最低1つは読者をアッと言わせる発見や心理トリックを盛り込みたいタイプで、アイデアも常時いくつかはストックしてある。ただし警察学校の場合は資料も限られるし、いっそネタ探しの為に入学しようかと思ったくらいです(笑い)」
幸い警察学校内部に取材を許され、細部も一層補強された全6話では、生徒の前歴が各話のカギを握る。
祖父に憧れて警官を志した第1話「創傷」の〈桐沢篤〉の場合、〈捨てたものが反対〉だった。病院の長男に生まれた彼は、弟が後を継ぐまで夢を封印して内科医を務めた変わり種で、特に問診で培った「聞く力」には、風間ですら一目置く。
例えば風間が教鞭をとる〈地域警察〉の授業でのこと。桐沢は空き巣のあった地域で口の重い住民に話を聞くコツを問われ、〈《伝聞のテクニック》を使えばいい〉と答える。厄介事を避けたがる住民の意見を、誰かに聞いた〈第三者の意見〉として聞けば心理的負担を減らすことができ、これは正解。
では窃盗犯に盗品の在り処を吐かせたい時、2人の刑事はどう役割を演じるべきか。桐沢は片方が鬼刑事、片方は宥め役と答えて風間に一蹴されるが、正解の〈否定のテクニック〉が実は桐沢を退学の危機から救う伏線となるなど、1話1話の完成度はまさに必見だ。
「つまり片方が片方の言うことを悉く(ことごとく)否定していると、第三者はつい口を挟みたくなる心理を使うわけですね。そんな日常にも通じる普遍性と絶対的な特殊性が混在するのも、警察学校でした」
実は桐沢が寮を移る際に警察手帳を失くし、それが誰の仕業かも、風間は全てお見通しだったが、手帳の紛失は即刻退学という規則通りには桐沢を処分せず、事件を授業に利用さえした。また生徒の問題点を見抜き、退校届を突然突きつけて執行は1週後と迫る〈半引導〉も、本人のためを思えばこその指導なのだ。