放射線治療は、照射範囲や角度、照射量の調節などの技術が進み、正常細胞をできるだけ傷つけないようになっている。しかし、正常細胞と、がん細胞が混在しているような場所では副作用があり、治療しにくいという問題があった。そこで、がん細胞を特異的に攻撃する治療として研究が進んでいるのが、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)だ。
BNCTは、がん細胞に集積されやすいホウ素化合物を事前に点滴しておき、腫瘍に向けてエネルギーの低い中性子を照射する新しいがんの治療法だ。がん細胞の中で、中性子とホウ素化合物が核反応を起こし、X線より強力な粒子線が放出され、がん細胞が死滅する。しかも、その粒子線の飛散範囲は、約9マイクロメートルと狭いので、正常細胞を傷つけることがない。
国立がん研究センター中央病院放射線治療科の伊丹純科長に話を聞いた。
「BNCTの原理は、アメリカで考案されたのですが、その後の研究は日本を中心に行なってきました。BNCTは、かつて中性子を出すのに原子炉が必要でしたが、当病院では昨年11月に、世界初の固体リチウム標的を用いて小型化した病院設置直線加速器BNCTを開発しました。リチウムに陽子を当てて、低いエネルギーの中性子を取り出すことに成功。患者の被ばくのリスクを低減することも可能となりました」
BNCTの実用化には、効率よく大量にホウ素をがん細胞に取り込ませる必要があるため、ホウ素化合物としてボロノフェニルアラニン(BPA)というアミノ酸製剤が考案された。がん細胞が分裂をするのに大量のアミノ酸を消費する。
そこで、BPAを投与するとアミノ酸を取り込もうと、がん細胞には多くのBPAが集積する。中性子はホウ素化合物にしか反応しないので、正常細胞を通り抜け、ホウ素化合物を多く集積したがん細胞に取り込まれることになる。正常細胞にもごく一部集積するが、圧倒的にがん細胞に取り込まれるので、選択的に治療が可能となる。