今年は、暴力団対策法成立から25年。昨秋、明るみになった六代目山口組から神戸山口組が分裂した騒動は、以前ならばすぐに抗争へと発展した。しかし今は驚くほど静かだ。暴力団事情に詳しいジャーナリストの溝口敦氏と鈴木智彦氏が、ヤクザは武力を捨てたのかどうかについて論じる。
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溝口:語弊があるかもしれませんが、山口組分裂騒動をワイドショーや週刊誌で大々的に取り上げるのは、一般の人たちがケンカを見たいから。私たちも含めたみんなが野次馬なんです。
その観点で見れば、抗争とは暴力団が支払う社会的費用と言えます。抗争では、実行犯が逮捕されたり、多額の見舞金が必要だったり、ときには組織に捜査のメスが入ったりするというコストがかかる。そうしたコストをかけず抗争しない暴力団はバカにされ、誰からも相手にされなくなります。存在意義がなくなるということです。
鈴木:これまで暴力団は多くの事件を起こして、人を傷つけてきた。そうして支払った社会的なコストによって存在してきたわけですからね。
溝口:今はコストをかけたくてもかけられない。かける度胸もないというのが本当のところでしょう。勝負に出るにはみな老境を迎えている。もっとも多かった時期に10万人を超えた日本全国の暴力団構成員は現在約2万人。新たな人材は供給されず、老いさらばえた組織になってしまった。袋小路です。
鈴木:安藤昇が横井英樹襲撃事件(※注)を起こしたのは32歳のときです。実行犯は25歳。それに比べたらおじいちゃんだから、みんな腰が重い。
【※注/1958年6月、実業家の横井英樹氏が金銭トラブルに絡んで安藤組の組員に銃撃された事件。実行犯と、安藤昇組長らが逮捕された】