「下流老人」という言葉にドキッとはするものの、どこかで自分とは関係のない存在と思いたい。そんなとき、「上流」と「下流」の明確な境界線を突き付けられたら──。大規模な高齢者調査と検証によってその「境界線」がわかった。
マーケティング・アナリストの三浦展氏は11年前にベストセラー『下流社会』(光文社新書)で「下流」という言葉を世に出したが、新刊『下流老人と幸福老人』(同)のなかで、「下流老人」の実像を浮かび上がらせたのだ。
三浦氏は三菱総合研究所による最新のシニア調査や自身が所長を務めるカルチャースタディーズ研究所によるアンケート調査などをもとに高齢者の経済状況やライフスタイルを分析した。
それによると、65歳以上の高齢者の金融資産総額は平均2772万円だが、1億円以上の資産を持つ上位3.3%の高齢者が資産全体の29.7%を保有しており、人口比率で最も多いのは資産「500万~1000万円未満」(15.1%)だ。
三浦氏はこの金融資産の額をもとに線引きをし、「2000万円以上」を「上流老人」、「500万円未満」を「下流老人」、その中間を「中流老人」に分類している。その結果、60代の34.5%が下流老人に該当することが分かった。金融資産の内訳をみると、上流と下流では大きな差がある。
「今回の調査でも上流老人ほど国債や外国為替、株式など有価証券の保有率が高い。言い換えれば、有価証券によって格差が拡大しているといえます」(三浦氏)
かたや下流老人は、有価証券どころか、半数以上が定期預金すら持っていない。下流の中でも資産200万円未満の「超下流老人」のなかで定期預金を持っているのはわずか28.7%に過ぎず、200万円以上500万円未満の人でも54.9%しか定期預金を持っていないのが実態だ。
しかも悲しいことに、60代の時点で下流にある人が、中流、上流へと上がっていくのは難しい。