<プレストウィッツ氏は1980年代のレーガン政権で商務長官顧問として、自動車や半導体に関する日本との一連の貿易交渉の実務責任者となり、その名を広く知られた。その強硬な交渉ぶりから「タフ・ネゴシエーター」とも「ジャパン・バッシャー」とも呼ばれた。日本の国のあり方が自由な市場経済とされながらも実は異端だと主張し、「日本異質論者」とも評された。
米国の主流の日本観に挑戦した点で「修正主義者(リビジョニスト)」とも呼ばれた人物である。もともと日本研究の学者で、慶応大学にも留学した。退官後は自ら経済戦略研究所を設立し、日米関係や日本についての研究や著述を続けてきた。著書の『日米逆転』『ならずもの国家アメリカ』は日米両国で話題を呼んだ。そんな日本研究の権威が、仮定とはいえ「中国による日本侵略」という現実的な脅威を論じたことは興味深い>
──日本が重大な危機に直面して初めて、2050年にすばらしい大国になれるような前向きの政策をとり始めるという想定だが、危機はほかにもあるのか。
「経済危機も想定される。アベノミクスは第三の矢がうまく放たれず、インフレ目標も達成できず、財政赤字が増えて、経済全体が縮小する。地震か火山の噴火で原子力発電所の事故が再び起きることも考えられる。
アメリカの太平洋戦略も大きく変わりうる。
アメリカは軍事面で日本周辺でも空母の配備などで中国に対して制圧的な立場を保ってきた。しかし今後は、それが国内世論や財政状況、さらに中東やロシアなど世界の他地域での動乱への対処から難しくなる。第七艦隊の拠点も横須賀からハワイやグアムへ後退させる。米軍が防衛線を中国側の主張する第二列島線(日本から小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアを結ぶ線)まで引き下げるわけだ。
となると、日本もいくら日米安保条約があるといっても心配になるだろう。さすがの日本も自国の防衛を現実的に懸念せざるをえなくなる。自国の防衛力強化とともにインド、オーストラリア、フィリピンなどとの安保協力を強めるだろう」
※SAPIO2016年5月号