「2050年の日本」は活力と魅力ある新型超大国として栄えるという大胆な予測の書『JAPAN RESTORED(日本復興)』がアメリカで出版され、話題となっている。著者のクライド・プレストウィッツ氏は、レーガン政権時に商務長官顧問を務め、自動車や半導体貿易交渉の前面に立ち、ジャパン・バッシャー(日本を叩く者)として知られた人物だ。その同氏がいまなぜ日本を礼賛し始めたのか? 産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が、プレストウィッツ氏に問いただした。
──日米両国でジャパン・バッシャーとして知られていたあなたが、なぜ日本をこれだけほめちぎる本を書いたのか。
「日本の衰退を真剣に心配したからだ。2011年から、日韓両国の自動車産業の比較調査のため、再び日本に頻繁に行くようになり、日本が活力をすっかり失い、将来への潜在的な発展能力までを失いつつあることにびっくりした。1980年代に私が知っていた日本ではないのだ。とても悲しい光景だった。
この印象を知人の経済産業省の局長に話し、『いまの日本に問題が多々あることはわかるが、長期的な未来像としてのビジョンはなんなのか』と尋ねてみた。すると彼は『日本のビジョンはクール・ジャパンだ』と答えたので、さらにショックを受けた。
クール・ジャパンというのは日本政府がアニメや和食を海外に宣伝することが主体だ。かつての通産省高官の天谷直弘氏がこれを聞いたらなんと嘆くことかと思った」
──天谷氏は80年代に『日本町人国家論』という書で日本が単に金もうけを目指す町人国家ではなく、外交や安全保障で国際的な役割を果たす志のある国家となれ、と説いた。クール・ジャパンの思考はそれに逆行するということか。
「そのとおりだ。最近の日本はまるで自殺をしつつあるようだ。私は日本がそんな状況をなんとか逆転し、活力を回復してほしいと思った。私も長年、日本を研究してきたからそのための提案は多数ある。それを書いて日本の復興に役立たせたいと考えた。
日本の衰退はアメリカにとっても大きなマイナスとなる。ただし私は日本では外国人だ。外国人からあれこれ指図されるような提言には日本の人は反発するだろう。だから話を逆転させて、『未来の日本がファンタスティックな国になっている』『そのためにはどうしたのか』という順序で日本が歩むべき道を説明していけば、説得力があるだろうと考えたのだ」
──そうであれば、この本は日本への激励文ということになる。
「そうだとも言える。日本をいかに再生させるかだ。日本はこれまで明治維新と第二次大戦の敗北と二度、大きく再生した。だから三度目のよみがえりも十分に可能だろう。
ただ過去の二度の再生はきわめて劇的な環境変化、しかも外部からの変動の結果だった。今回も外部からの劇的な変動が必要だろう。その結果としての重大な危機がないと日本は動かない。そう考え、まずイスラエルがイランの核施設を爆撃し、ホルムズ海峡が封鎖されて、日本への石油供給が止まるというシナリオを考えた。だがこれでは日本を動かして『2050年の夢』を実現させるに十分な危機ではないと思った。
そこで想定したのは中国による尖閣諸島の軍事占領だ。同時に沖縄が独立を宣言し、中国がそれを承認し、既存の軍事基地などを使えるようになる。沖縄経済が中国に大きく傾斜する。中国は同時に韓国とのきずなを強め、北朝鮮との関係も保持する。中国の影響下での朝鮮半島の経済面での事実上の統一という事態が起きる。みな日本にとっては重大な危機だろう」