ベストセラー『下流社会』で知られるマーケティング・アナリストの三浦展氏は、新刊『下流老人と幸福老人』のなかで、「下流老人」の実像を浮かび上がらせた。三浦氏は、三菱総合研究所による最新のシニア調査や自身が所長を務めるカルチャースタディーズ研究所によるアンケート調査などをもとに高齢者の経済状況やライフスタイルを分析した。
それによると、65歳以上の高齢者の金融資産総額は平均2772万円だが、1億円以上の資産を持つ上位3.3%の高齢者が資産全体の29.7%を保有しており、人口比率で最も多いのは資産「500万~1000万円未満」(15.1%)だ。
三浦氏はこの金融資産の額をもとに線引きをし、「2000万円以上」を「上流老人」、「500万円未満」を「下流老人」、その中間を「中流老人」に分類している。60代の34.5%が下流老人に該当することが分かった。
ただし、階層は分かれても、「下流老人」だから不幸、「上流老人」だから幸福とは一概にいえない。シニア調査では「幸せか」の問いに、金融資産200万円未満の「超下流老人」でも半数以上(53.8%)が「幸せ」と回答している。もちろん金融資産が多いほど幸福度は高まるが、その差は小さく、逆に上流老人でも20%以上が「どちらともいえない」「幸せでない」と答えている。
上流でも不幸に、下流でも幸福だと感じている人にはどんな特徴があるのか。その理由は健康や家族、夫婦関係にあるようだ。
「上流老人の場合、子育てに失敗したとか、夫婦関係が上手くいかないということがあると、俄然不幸を感じる度合いが高まります。学歴もあり、仕事でも成功したけれど、画竜点晴を欠くということなのでしょう。とくに男性の場合、熟年離婚が一番響きます」(三浦氏)
調査では上流老人のなかで幸せではないという人の30%が「夫婦生活があまりうまくいかなかった」(幸せな人は1.6%)、22.5%が「もっと恋愛をしておけば良かった」(幸せな人は6.5%)と回答している。
退職金をもらったとたんに妻に離婚届を突きつけられる「熟年離婚」も増えている。厚労省の「人口動態統計」(2013年)によれば、20年以上連れ添った熟年夫婦が離婚した件数は3万8034件にものぼる。
「妻と豪華客船で世界一周するのが老後の夢だったが、仕事を辞めたとたんに離婚届を突きつけられた。身を粉にして働いてきたのに、俺の人生は何だったのか……」(68歳・元会社役員)
これではいくら金融資産があっても幸せだと感じられるはずもない。しかし一方で、1人暮らしの高齢者でも幸福を感じている人は少なくない。