3歳クラシックの第1弾・桜花賞が近づいてきた。牝馬三冠のひとつめである桜花賞には、わずか18頭しかゲートインできない。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、生涯で一度しか出られない桜花賞の難しさと角居厩舎にとっての課題について解説する。
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桜花賞。名のとおり雰囲気も華やかで、桜の開花と同じようにファンが待ち望むレースでしょう。阪神のマイル戦は好きなコース。しっかりと力比べができるところがいい。陣営としてはぜひとも勝ちたいところですが、角居厩舎は一度もこのレースを勝っていません。オークス、秋華賞は制しているのに、です。
2007年のウオッカ。後にダービーを勝った馬ですら桜花賞は2着。2005年のシーザリオも惜しい2着。6戦5勝、日米オークス勝利の戦績ですが、唯一の敗戦が桜花賞です。2008年のトールポピーも1番人気に推されながら8着。桜花賞、なかなか一筋縄にはいきません。
牝馬3歳の春はとてもデリケートです。フケ(発情)の出る時で、体調管理が難しい。手入れをしていると人間のほうに体をぐっと押しつけてきたり。排尿のポーズをしたり。でもこれはこれで、健康に育っている証拠なんです。
ただし、鞍上が馬の腰元あたりに触れると、過剰反応してスタートが遅れたりすることがある。体調を安定させるための工夫が要ります。
フケを早めに促します。1月2月の寒い段階から、夜でも白熱灯で馬房を明るくし、暖かくする。フケは排卵と密接に関わっていて、馬はそれを日照時間の長さで認知する。「あら、春が近いのね」と感じる。フケの時期を前倒しすることで、桜が咲く季節になれば気持ちもいくぶん落ち着くというわけです。毛並みも良くなり、馬体も美しくなります。
それでも牝馬はやはり調子の維持が難しく、自信を持って送り出せる状態になりにくいのが実情です。この時期の牝馬の体調事情はどの厩舎も同じです。態勢が整わず、有力馬が直前で回避することもめずらしくありません。