総合商社業界において三菱商事が15年間守り抜いてきたトップの座を奪ったのは、非財閥系で野武士集団とも呼ばれる伊藤忠商事だった。三井物産と住友商事という財閥系を押しのけ、3300億円の利益をたたき出しての王座奪取だ。この大逆転劇を演出したのは、2010年4月から社長を務める岡藤正広氏(66)の手腕によるところが大きい。
伊藤忠では、社長は6年で交代というのが半ば不文律になっている。しかし岡藤氏は今年1月、それを踏襲せず続投を決めた。
「社内向けのイントラネットで続投宣言がありました。昨年11月の野球の国際大会『プレミア12』の韓国戦で、先発の大谷翔平投手が快投して7回で定石通りに中継ぎに交代したにもかかわらず逆転負けを喫したことを引き合いに、『交代のタイミングは難しい』と説明していました。続投に関しては、私を含めほとんどの社員が歓迎しています」(30代後半社員)
この宣言と時期を同じくして、岡藤氏は「ライザップ」という新たな挑戦を始めている。食事制限と運動によって体を絞るトレーニングジムに通い始め、
〈この6年間で血糖値とか体がだいぶ悪くなった。ライザップを始めて半月後に血液検査したら良い数字が出た。これはええなと盛り上がった(笑)〉
と経済誌で明かした。5kg以上の減量に成功しているという。
3月1日付の日経新聞朝刊に見開き2ページで掲載した「青い商人」と題された広告も大きな話題となった。
1974年当時の伊藤忠の社員が、自分の部署に配属されてきた新入社員と交わした会話の思い出が綴られている。その新入社員は生意気な物言いをしたが、その後、事業を立て直しやがて社長に就任したと語られる。締めくくりはこうだ。
〈ところで岡藤君。最近あの頃のきみのような、生意気な眼をした若者に会ったかい?〉
企業広告に社長の半生を載せるとは異色社長らしい。念願の首位に立った伊藤忠だが、現状を維持していれば前途洋々というわけではなく、勝ち続けるための手を打っている。