「老後資金は1億円必要」――最近、新聞や雑誌をにぎわすそんな見出しを見てギョッとした人もいるかもしれない。サラリーマンの生涯年収は平均して約3億円といわれているのに、まさかその3分の1の1億円が必要!? 絶対無理! と、思う人がほとんどのはず。埼玉県に住む主婦(58才)が言う。
「夫は会社員で、退職金は2000万円くらいと言っています。家のローンは払い終わっているけど、年金なんてどれだけもらえるかわからないし、退職金だって満額もらえるかわかりません。子供が成人してだいぶ経つので、少しの貯蓄はありますが、1億円なんてとても無理。今から貯めることができる額とも思えません」
1億円という数字――その根拠は“ゆとりある生活”にあるようだ。生命保険文化センターが実施した「平成25年度 生活保障に関する調査」のアンケート結果によると、「ゆとりある老後生活費」の平均は、夫婦で月額35.4万円だった。仮にふたりとも85才まで生きるとすれば、60才から85才までの25年間で、約1 億600万円が必要になる。
これだけ聞くとちょっと心配になる。でも、大丈夫。そんなに準備しなくとも老後はちゃんと過ごせるもの。とはいえ、なんとなく安心して、何もしないでいるのはNG。チェックしておかなければいけないのは、退職してからの生活の予測だ。
まずは自分が何才まで生きるかを想定して、老後必要な収入と支出を把握しよう。ファイナンシャルプランナーの横山光昭さんが言う。
「今、男性の平均寿命は81才、女性は86才といわれています。今後も寿命は延びていくので、これから老後を迎える人の場合は、90才くらいまで生きると想定しておくことをオススメします。
そして、老後は月にいくらお金がかかるのか、どれくらい収入が見込めるかをしっかり把握しましょう。老後の収入はこれまで貯めてきた貯金をベースに、退職金や年金支給額によって変わります」(横山さん、以下「」内同)
支出の額はもちろん人によって違うが、総務省の家計調査によると、高齢夫婦(夫65才以上、妻60才以上)無職世帯の1か月の家計支出は、シミュレーションでは平均約27万円と算出されている。“ゆとりある”生活とは大きく差が開くが、支出の内訳を見れば、この額でまずまずゆとりがあるといってよさそうだ。
一方、老後の大きな収入源である年金と退職金は、夫が会社員か自営業かで異なってくる。会社員や公務員なら退職金と厚生年金をもらえるが、自営業の場合は国民年金のみとなる。では実際に、老後の生活をシミュレーションしてみよう。
■夫が会社員、妻が専業主婦の場合
(夫が85才、妻が95才で亡くなると仮定した場合、65才以降、いくら必要になるかを試算)
「夫がずっと厚生年金に加入していれば、妻も国民年金を受給できるので、夫婦の平均受給額は月21万円と試算されます。
その年齢の家計支出額は月平均27万円(総務省「家計調査」による)なので、27万円から21万円を差し引いた6万円が月々不足することになります。不足額は、1年で72万円、(夫が85才で亡くなると仮定して)20年間で1440万円。この赤字1440万円分を、退職金を含めた預貯金でまかなう必要があります」