高度約7600mの上空、時速約1000kmで旋回や急降下を繰り返す戦闘機。常人が立ち入ることのできないコックピットに乗り込み、パイロットと連携してその臨場感を切り撮るカメラマン。国際的にフリーランスで危険なこの仕事に挑む者は、現在、世界でも数人。
その一人、徳永克彦氏(59)は21歳で初めて戦闘機に搭乗して以来、38年間で飛行時間は1850時間以上になる。
「オファーがあっての撮影ですが、戦闘機1機を飛ばせば燃料代などで200万円、10機なら2000万円。仕事として失敗は許されません。上空での撮影は通常1時間。太陽の角度や高度、撮影する背景の地形、機体の姿勢など、すべてをフライト前にパイロットと綿密に打ち合わせ、実行してもらいます。確実に、しかも、安全に遂行できる人間にしか依頼できない特殊な撮影なのです」(徳永氏)
例えば、ドバイで旋回中のアレニア・アエルマッキM-346(イタリア空軍)は、人工島「パーム・ジュメイラ」を背景にバレルロール(らせん飛行)で撮影。中東の夏は視程が悪く、冬に撮影したという。他にも、夜間飛行をするロッキードF-16(タイ空軍)の写真を見ると、高度7600m、機体の後ろで敵機ミサイルからの赤外線センサーを欺くために放出された「フレア」がオレンジ色に輝いている。
緻密な空のスペシャリストたちの技術が、我々が普段見ることのできない迫力の風景を写し出す。
撮影■徳永克彦(とくなが・かつひこ):1957年東京生まれ。1978年、アメリカ・ティンドル空軍基地でロッキードT-33Aジェット練習機に搭乗。1984年には日本人初のアメリカ海軍アクロバット航空隊「ブルーエンジェルス」公式カメラマンに選ばれる。以後、各国軍用機の「空対空」専門カメラマンとして活躍する。
※週刊ポスト2016年4月22日号