5月26~27日のG7首脳会合に先立って広島で開かれた外相会合(4月10~11日)では、〈広島及び長崎の人々は、原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験〉したと明記する「広島宣言」を採択。各国の政治指導者に広島訪問を呼び掛けた。平和記念資料館を参観した米国のケリー国務長官は、
「ここで見たこと、そしていつか訪問することがいかに重要かを(オバマ大統領に)確実に伝える」と表明。
「核なき世界」を掲げてノーベル平和賞を受賞したオバマ氏が、5月のサミットの際に広島を訪問して謝罪の言葉を述べれば、米国大統領として初めてのことになる。しかし、ことはそう簡単ではない。
今回のケリー国務長官の慰霊碑献花や原爆資料館訪問についても、米国の3大ネットワークはニュースでほとんど報じていないうえ、ニューヨーク・タイムズは〈米国民の大多数が、原爆投下は日本を降伏させ、米国人を救うために必要だったと信じている。謝罪を示唆する言動は、政治的に大きな問題がある恐れがある〉とオバマ大統領に釘を刺す書き方をした。
「今回のケリー国務長官の広島の資料館訪問にあたっても、原爆の悲惨な被害を伝える展示写真とケリー氏が一緒に写り込んだ“絵”を報じられることに米国サイドが難色を示し、館内のカメラ取材に制限がかかった」(大手紙政治部記者)
国務長官の訪問だけでこの騒ぎなのだから、大統領の謝罪となればさらにハードルが上がる。ケリー氏はわざわざ「ここに来たのは過去に固執するためではない」とコメントし、“大統領の訪問も謝るためのものにはならない”ことを匂わせた。
問題をより複雑にしているのは、「民主党支持者よりも、共和党支持者のほうが、(『戦争を終結させるために必要だった』として)原爆の正当性を信じている割合が高い」(中岡望・東洋英和女学院大学大学院客員教授)とされる点だ。
11月に米大統領選が迫っている。米民主党内には、オバマ大統領が広島を訪問し謝罪と受け止められるような行動を取れば、トランプ氏ら共和党の候補者たちの格好の攻撃材料に利用され、ヒラリー氏ら民主党候補に不利にはたらくとの警戒感がある。