脳死後の臓器提供が可能になる臓器移植法が成立したのは1997年。
「本人の書面による意思表示と家族の承諾」が必要とされ、15才未満の子供は民法上本人の意思表示ができないため提供できなかった。法律が改正されたのは2010年。本人の意思が不明でも家族の承諾があれば提供できるようになり、6才未満の女児からの提供も可能になった。
その背景には、提供者不足を解消したいのはもちろん、小さな子供からの臓器提供でなければ、小さな子供に移植することは難しく、移植を待つ子供たちが渡米を迫られるなどの状況があったことも考えられる。日本移植者協議会代表の下野浩さんが言う。
「法改正後、脳死下の提供者は増えていますが、年間50~60件にとどまっています(心停止下を含めると約100件)。お1人のご提供者から5人くらいの患者さんに臓器を提供していただくので、移植を受けているのは年間300人を超えています」
でも、海外に比べれば日本の提供者は圧倒的に少ない。米国は日本の2.5倍の人口にもかかわらず、脳死・心停止下の提供は年間約8000件と日本の約70倍で、約2万3000人が提供を受けている。
臓器移植は2種類あり、亡くなった人(脳死を含む)から臓器の提供を受ける死体臓器移植と、生きている人(家族など)から提供を受ける生体臓器移植がある。死体臓器移植の場合、脳死と判定された場合と心停止と判定された場合の2種類があり、脳死か心停止で提供できる臓器も異なる。
「脳死の場合は肺、心臓、肝臓、膵臓、腎臓、小腸の6つの臓器と角膜の提供が可能です。心停止の場合は腎臓と角膜が提供できます。脳死の判断は厳格で、脳死かどうかは医師によって6時間ごとに2回の判定を受けます。また、移植コーディネーターを通して、提供していただくご家族に説明と意思確認を何度も行います。
また、ご意思があっても、傷ついた臓器や高齢者の臓器など、臓器の状態によっては移植することはできません。ルールが細かく規定されていて、6才未満はさらに厳しくなっています」(下野さん)
日本では提供者が少ないからこそ、その存在に注目が集まり、ときにはいわれない報道に傷つけられることもあった。
野田正志さん(仮名・70代)は10年以上前、息子が交通事故で脳死と判断された。 運転が好きだった息子は、臓器提供意思表示カードに提供の意思を記入していたこともあり、「命には死にゆく命と助かる命がある。息子は死にゆく命だったけど、生きた証として意思を尊重したい」と、野田さんは提供を決めた。
「親としてはどこかで、他の人のなかでも生き続けてほしいなという思いがあった。提供にあたって病院とのやりとりなどをしてくれた移植コーディネーターさんが、親身になって涙を流しながら対応してくれたのも後押しになりました」(野田さん)