ヤクルトスワローズの本拠地で、六大学野球の聖地でもある神宮球場が使えなくなるかもしれない──。といっても、東京五輪・パラリンピック組織委員会が「大会期間前後に使用をストップしてほしい」と求めた件ではない。なんと球場で使用される人工芝に、「発がん性」の疑いがかけられているのだ。
衝撃のニュースは米英から相次いで届いた。米国で今年2月、政府の消費者製品安全委員会が環境保護局などと共同で「人工芝の安全性を調査する」と発表すると、3月には英国の環境医学を専門とするスターリング大学のアンドリュー・ワターソン教授が、サッカー競技場で使用される人工芝に複数の発がん性物質が含まれることを確認した、との研究結果を発表。欧米に衝撃が広がっている。
きっかけは2014年に米国で放送されたあるテレビ番組だった。番組では、人工芝でプレーしていた全米各地の女子学生サッカー選手38人が、悪性リンパ腫や白血病など血液のがんなどを発症していたことを報じ、そのうち34人が芝生との接触が多いゴールキーパーだったため「芝生の発がん性」が疑われたのだ。
問題視されたのは、人工芝の充填剤(クッション)として使われる「黒ゴムチップ」だった。なかでも廃タイヤを粉砕して製造する黒ゴムチップには、ベンゼンやカーボンブラック、亜鉛など発がん性が指摘される物質が含まれている。
そうした指摘に対し、人工芝製造の世界最大手企業であるカナダのフィールドターフ社が「健康や環境に害を及ぼすことを示す決定的な科学的根拠は示されていない」と反発するなど、議論が続いている。