2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、「天上天下唯我独尊」という仏陀の言葉についてお届けする。
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お釈迦様は生まれてすぐに七歩歩いて「天上天下唯我独尊」と言ったといいます。実際は誕生時ではなく、出家修行が完成して仏陀となった直ぐ後で、他門下修行者の質問「貴方は誰の門下か」に答えた言葉です。お釈迦様は「天上天下、私に等しい者はいない、私は尊敬されるべき者(阿羅漢、あらかん)であり、無上の師である、私独りが完全に目覚めた者(仏陀)である」と答えられたのです。
続けて「カーシー国の町に行って法輪(いのちの苦を吹き消す仏陀の教え)を転じ、不死の鼓を打つ」と宣言された。当時、出家修行者達の課題は「死ぬという苦」の克服でした。これを初めて解決したのがお釈迦様で、それを説くことを「法輪(ほうりん)を転じ、不死の鼓(つづみ)を打つ」と表現されたのです。
しかし「天上天下唯我独尊」について別の解釈が流行しています。「我」というのは、お釈迦様だけでなく、「皆それぞれ自分というのは、かけがえのない尊い存在である」という解釈です。これは、お釈迦様の教えとしては正しいのですが、「天上天下唯我独尊」の宣言とは違う場面での話です。
カーシー国の仙人堕処(修行者が落ち合うところ)で、お釈迦様は最初の説法をされました。これを初転法輪といいます。ここで四諦(四つの真実)と八正道(八つの完全なる道)が説かれました。四諦・八正道についての詳細は次回以後に書かせて頂くことにして、概略は「死ぬという苦の克服で自己執着を離れるヨーガ(心の働きの制御)」です。