ところで韓国では依然、日本風居酒屋ブームが続いている。近年は若者街やビジネス街から高級志向のカンナム(江南)地域にも広がっている。日本語の屋号もだんだん凝ってきて「日本式伝統炭火焼き 天下の文太郎」とか「日本風炭火焼き 私の道」「炉端居酒屋 えんらく」や「ヒーリング居酒屋 癒し」といった日本の時流にのったネーミングまで多様だ。
日本系チェーンも「和民」をはじめ進出が盛んで「笑笑」もその一つ。ところがこの「笑笑」にも韓国系企業説が出ている。「わらわら」が韓国では「来い、来い」の意味になるからだ。韓国では近年、こんな語呂合わせみたいな屋号が流行っているので誤解しているのかもしれない。
ダイソーもそうだが、韓国人が韓国系企業と誤解するのは勝手だ。「ヤクルト」や「リンナイ」だって韓国人からよく「日本にもあるの?」といわれる。日本ビジネスにそれだけ人気と親近感があるということだから、日本人としてはもって瞑(めい)すべしだろう。
昔、『日本の中の朝鮮文化』シリーズで知られた在日韓国人作家の金達寿氏が、神奈川県の「大磯」は韓国語起源だといって笑い話になったことがある。韓国南部の釜山あたりでは「いらっしゃい」のことを「オイソ」という。そこで古代に朝鮮半島から関東地方にやってきて住み着いた渡来人が、後からきた連中に「オイソ!」といったのが後に「大磯」になったというのだ。
韓国人の対日誤解はユーモアなのかコンプレックスなのか。実に面白い。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2016年6月号