【反復する】
「実証は難しく、経験値としてわかっていることなんですが、例えば家族との旅行などの思い出や、自分の住所や電話番号はなかなか忘れません。これは印象が強かったり、重要であると認識しているからです。
その女性は、英単語を1日に何度も何度も書いて覚えたそうですが、強烈な印象でなくとも反復させることで、いやがる海馬を叩いて、長期記憶にするわけです。この反復は記憶方法としては王道。嫌がらずに反復練習ができる人は記憶力がいい人ともいえます」(柿木氏)
【人を巻き込む】
シヅ子さんは、わからないことを息子に聞いたり、親戚の女性や、市役所の人にいたるまで、臆することなく、なんでも聞いて回った。
「これは記憶の定着に大きくかかわります。いろんな人を巻き込むと、いろんなことが結びつきますから、そうやって覚えた知識は案外覚えているんです」(柿木氏)
高校、大学時代、仲間で集まって勉強会をした記憶をたどってほしい。無駄なおしゃべりも多かったけれど、その後のテストではいい点数がとれたということはなかったか? また当時のことを案外覚えていたりしないか? シヅ子さんの脳では、まさにそれと同じことが起こっていたと思われる。
【リラックスしながら学ぶ】
心を落ち着けて、集中して学ぶ―勉強の鉄則といえよう。
「リラックスできる場所で学習すると効果的であるといわれています。ただ人によってリラックスできる場所は違います。静かな場所が効率が上がると信じて疑わない人もいますが、そうではない。
私たちは日常的に、周囲に音があるところで生活しているので、案外、学習する時も周囲に音があるほうがリラックスできる場合もあります」(柿木氏)
シヅ子さんは、自宅の洋裁教室の中で勉強していた。そこは彼女がどこよりも居心地のいい場所だった。
【変化をつける】
変化をつけると、記憶力が上がるわけではないが、記憶しやすいという。シヅ子さんは、洋裁教室だけでなく、息子さんの家で学んでもいた。
「要は、飽きさせないということが重要」(柿木氏)だそう。
【目標を持つ】
孫と一緒に卒業する――シヅ子さんは、その夢を、家族や担任らに明かしていた。
「ダイエットもひとりで取り組むより、みんなに言ったほうが続きますよね。モチベーションが高まるんです。若い時もそうですが、高齢になればなるほど、漫然と何かをやるのではなく、目標を持つことが重要になってきます。モチベーションを上げて、さらに周囲に公言するのが記憶の定着に役立ちます」(柿木氏)
昔から脳は10%しか使われていない、とか、余力があるといわれている。確かに脳は老化する。記憶力も低下する。しかし、シヅ子さんの学ぶ姿勢からは、ただただ脳トレといわれているものを実践するよりも、無限の可能性が広がるのを感じてやまない。それは彼女が絶対に譲れない夢を追い続けているからなのかもしれない。
※女性セブン2016年5月12・19日号