メディアアーティスト・落合陽一氏は、28歳という若さにして、世界最先端の研究者を選ぶ「米ワールド・テクノロジー・アワード」(2015、ITハードウェア部門)を、ノーベル賞の中村修二氏に続き日本人で2人目に受賞した人物だ。新著『これからの世界をつくる仲間たちへ』も話題になっている。
一方、生命保険という“レガシー”な業界に「ネット生保」という新たな形で挑戦し、注目されているライフネット生命社長の岩瀬大輔氏は、落合氏の開成高校の先輩だという。新たな世界に挑む2人が、近未来の「仕事」と「テクノロジーの行方」について語り合った。
岩瀬:落合さんの『これからの世界をつくる仲間たちへ』には、「テクノロジーが社会をどう変えるのか」と「その社会でどう生きるべきか」という2つの側面が書かれていますよね。
落合:これまではコンピュータが発達しても、それは「道具」で、あくまで「操っているのは人間」と認識されてきました。それが、近未来では社会はすべてコンピュータ中心になり、その中に女王アリみたいな人間がいて、外にいる働きアリ的な人間とインターネットでつながっている社会になっていくと思います。インターネットは人間の巣になりうる。
岩瀬:「人工知能」や「シンギュラリティ(*注)」が社会を激変させ、まったく違う世界が来るという指摘がありますが、僕はやや懐疑的です。人工知能が人間の代わりにコンピュータを進化させるという手塚治虫的な世界が本当に訪れるのかどうか。
【*注:シンギュラリティ:技術的特異点。人工知能が人間の能力を超えることで、人類の過去の傾向に基づいた変化の予測モデルは通用しなくなるという考え方】
1980年代にも「マルチメディア」で社会が激変するかのように喧伝されましたが、結局、人間がいなければ社会は回らないですよね。「IT革命」と言われた時期もありましたが、結局人間の営みが重要であることは変わらなかった。
落合:たしかに、人類は新しいメディアに対していつもまったく同じ受容の仕方をしてきましたね。
岩瀬:新しいテクノロジーも同じだと思います。蒸気機関が出現したときも人間は脅威を感じて過剰反応したでしょう。でも、やがてそれと共生するようになった。人工知能もそれと同じで、意外と大きな影響はないような気もしますが。