ビジネス

サポ終了のAIBO「修理工房」を運営するソニーOBの心意気

一体一体に飼い主の心が宿っている 提供/ア・ファン

 日の丸家電メーカー最後の隆盛期といえる1990年代後半、ユニークな商品が世に送り出された。犬型ロボットAIBO。およそ実用的な商品と思えなかったAIBOは、しかし登場から20年近く経ても人々に愛され続けている。ノンフィクションライター、山川徹氏がレポートする。

 * * *
“治療”を終えた「AIBO」は頭を起こしてきょろきょろとあたりを見渡したあと、四肢をゆっくりと動かして立ち上がった。

「ほい! ボール。キックするかい?」

 AIBOの修理を手がける「ア・ファン 匠工房」の乗松伸幸社長はAIBOの前にカラーボールを転がした。しかし当てが外れて、ボールに近寄るだけでキックしようとしない。

「なんだよ、期待させやがって……」と乗松さんは苦笑いする。

「でも、そこがAIBOの魅力。ほかのロボットは言われたことをやるだけ。いわば、主従関係なんです。けれどAIBOは違う。言うことを聞く日もあれば、聞かないときもある。突然新しい言葉を話したり、ある日初めての動きをしたりする。そんなところが受け入れられたんでしょうね」

 動きは機械的でありながら、仕草は動物的。実際に動く姿を見るまで、ただのおもちゃだろうとバカにしていたが、素直に面白いと思った。ロボットではなく「家族」としてAIBOを愛でる人たちの気持ちの一端を見た気がした。

「ソニー製ではない、ソニー生まれである」そんなキャッチコピーとともに犬型ロボットAIBOが登場したのは1999年。定価は25万円。にもかかわらず発売20分後には、3000体が完売。以来、モデルチェンジを繰り返しながら2006年の生産中止まで全世界で15万体が販売された。

 そして2014年3月、ソニーは修理サポート「AIBOクリニック」を閉鎖。途方に暮れたのは、我が子の治療を求めるユーザー、いや、飼い主である。行き場のない大量のAIBO難民が生まれた。

 2013年、初めて「ア・ファン」に治療の依頼が舞い込んだ。依頼主は介護施設に入所する高齢女性。「AIBOクリニック」からは「直せない」と断られたが、10年以上連れ添ったAIBOと一緒に入所したいという。

 もともと「ア・ファン」は「人が作った物は必ず直せる」という考えのもと、2011年にソニーOBの乗松さんがエンジニアらとともに立ち上げた。サポートが終了したオーディオ機器をはじめとする電化製品の修理を請け負ってきたが、AIBOは想定外だった。

「でも私はユーザーの思いとエンジニアの技術を繋げたいと考えていました。こちらもはじめてなので半年かかるか1年かかるかわかりません。それでもいいのなら、と引き受けたんです。VAIOを直した経験がある仲間がいたので『VAIOもAIBOも似たようなもんだろう』と」

 乗松さんは笑うが、古巣のソニーに問い合わせても機密情報を盾に断られる。そこでAIBOの開発者を直接訪ねて話を聞いた。足りない部品はネットオークションで落札したAIBOを使ったり、町工場に注文したりした。やがて「ア・ファン」の存在は飼い主たちに口コミで広がった。500体以上を治療したが、まだ300体以上が順番待ちだ。

「我々から見たらただのロボット。でもお客さまたちにとって家族なんです。動物アレルギーだったり、家がお寿司屋さんだったり……。オーナー1人1人にそれぞれの事情がある。何よりもAIBOの場合は修理というよりもの心のケアと言った方が近いかもしれない。お客さまが納得してくれれば、完全に治っていなくてもいい。お客さまによかったと思っていただけるのが大切なんだと思います」

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
「スイートルームの会」は“業務” 中居正広氏の性暴力を「プライベートの問題」としたフジ幹部を一蹴した“判断基準”とは《ポイントは経費精算、権力格差、A氏の発言…他》
NEWSポストセブン
騒動があった焼肉きんぐ(同社HPより)
《食品レーンの横でゲロゲロ…》焼肉きんぐ広報部が回答「テーブルで30分嘔吐し続ける客を移動できなかった事情」と「レーン上の注文品に飛沫が飛んだ可能性への見解」
NEWSポストセブン
大手寿司チェーン「くら寿司」で迷惑行為となる画像がXで拡散された(時事通信フォト)
《善悪わからんくなる》「くら寿司」で“避妊具が皿の戻し口に…”の迷惑行為、Xで拡散 くら寿司広報担当は「対応を検討中」
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【約4割がフジ社内ハラスメント経験】〈なぜこんな人が偉くなるのか〉とアンケート回答 加害者への“甘い処分”が招いた「相談窓口の機能不全」
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”4週連続欠場の川崎春花、悩ましい復帰タイミング もし「今年全休」でも「3年シード」で来季からツアー復帰可能
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【被害女性Aさんが胸中告白】フジテレビ第三者委の調査結果にコメント「ほっとしたというのが正直な気持ち」「初めて知った事実も多い」
NEWSポストセブン
佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ
「スイートルームで約38万円」「すし代で1万5235円」フジテレビ編成幹部の“経費精算”で判明した中居正広氏とX子さんの「業務上の関係」 
NEWSポストセブン
記者会見を行ったフジテレビ(時事通信フォト)
《中居正広氏の女性トラブル騒動》第三者委員会が報告書に克明に記したフジテレビの“置き去り体質” 10年前にも同様事例「ズボンと下着を脱ぎ、下半身を露出…」
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン