前・後編合わせて4時間を超える映画『64-ロクヨン-』に主演する佐藤浩市(55才)。この作品は、未解決の少女誘拐事件をキーに、警察組織と遺族、組織と報道メディアの間で翻弄される主人公を中心に描かれる、人間の心を丁寧に描いたミステリーだ。
前編では、加害者の匿名報道を巡り対立する県警・広報室と記者クラブの間で奮闘する三上(佐藤)の姿が描かれ、後半は、昭和64年に起きた未解決事件を連想させる新たな誘拐事件に立ち向かう三上の姿が描かれる。
三上は公人としては組織の中で孤独な闘いを強いられ、私人としては失踪したひとり娘に苦悩する父親だ。
――映画では、警察官である前に、ひとりの男であり、父親である三上の微妙な心の変化と経過が丁寧に描かれていましたね。
「三上は家の中でも刑事だったんですよね。そして、家族との間に結界を張って、刑事であることに逃げていた。それが娘にとっては許せないことだったんです。だから娘は父に反抗した。ところが、14年ぶりに娘を誘拐されて殺された雨宮という男に会ったことが間口になって、私心を揺さぶられるんです。そして、変わっていく。この変化というのは、ぼく自身がここまで役者をやってこなければ、思いつかない発想だったと思いますね(と、自らに確認するようにうなずく)」
――前回(『ターミナル 起終点駅』の時の取材では)、家庭では仕事を引きずらないとおっしゃっていましたが、とはいえ、ご自身でもどこかで役者の顔を引きずっていた経験があるということですか? それは台本にはない、ご自身の心境の投影ですね。
「台本にあることだけ、演出家に言われたことをベストにこなすだけで、役作りができるわけはないんです。自分がなぜこの役をやるのか。自分がどうやればその人間の暗部や闇まで見せられるのか、と突き詰めます。そのためには、くどいくらい監督とも話しますし、ありとあらゆることをして、何かがつかめる、というか、“開ける”のを待つんです」
――最後までつかめないなんてこともあるんですか? すみません、失礼な質問ですね(汗)。
「いえ(と、微笑み)、ありますよ。そういうのは自分にとって、痛い作品です」
――ちなみに、この作品はいかがですか?
「これを痛いと言ったら、逆に自分にどれだけの才能があると思ってんだ! ということになるからな~(と、声を立て笑う)」