料理への執着にただ、圧倒される。70代後半の男性が待てないとばかりに、ターンテーブルを強引に自分の前に回す。自分勝手に食べるだけで、女性に取り分ける男性もほとんどいない。
女性にサーブする男性を発見、心の中で拍手したが、汚らしく上に重ねていくだけ。料理の味が混じることにも、お構いなし。無法地帯のようながっつきように、Aさんが言う。
「普段、コンビニ食ばっかりだから、こういう料理が食べられるからいいんだよ」
色恋より食って……。食も満たせるから一石二鳥なのか。
Aさんは離婚後10年間、一人暮らし。定年退職後はネットでデイトレードをしてぼちぼち稼いでいるという。
「ここに来ればこうやって知らない人とも話せるから、一人でただ家にいるよりは、健康面でもずっといいよ」
片側の男性、Bさんも常連だった。離婚後、娘ともなかなか会えず、孫を産んだらしいが写真で顔を見るだけという。60代前半で、元デパート勤務とあってダンディな雰囲気。これまで数人の女性と食事をしたが、交際には至らなかったという。
「食事を何回かしてそれで、終わり。自然消滅。彼女、今日も来ていて、挨拶したよ」
私を挟んでなぜか、AさんとBさんが仲良くなり、麻雀を一緒にしようと盛り上がる。会社を辞めると、仲間を集めるのも難しいらしい。AさんもBさん同様、交際には進めていない。
「この年になると難しいよ。人生観とかスタイルが決まっているから。一回話せば一緒にいられる人かどうか、すぐにわかる。居心地のいい人がいいんだけど」
●くろかわ・しょうこ/1959年、福島県生まれ。30歳の長男と22歳の次男の母。2度の離婚を経験し、現在は彼氏いない歴18年。著書に『熟年婚』(河出書房新社)、『誕生日を知らない女の子』(集英社、第11回開高健ノンフィクション賞受賞作)、『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)など
※週刊ポスト2016年5月20日号