子供に多い中耳炎の大半は、鼓膜内側の中耳に細菌が入ったことによる急性感染症だ。激しい痛みをともない、耳だれや発熱などの症状がある。
子供は耳と鼻の奥とを繋ぐ耳管(じかん)が平行に近いため、鼻から細菌が侵入しやすく感染が起こりやすい。急性中耳炎は成長とともに減少し、小学6年生頃に激減する。
子供から大人まで起こる滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)は、比較的弱い炎症が中耳内で起こり、中耳の粘膜から炎症性の水が染み出てくる。痛みはほとんどなく、この滲出性中耳炎を繰り返す人に多く発症するのが真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)だ。
神尾記念病院(東京都千代田区)の神尾友信院長に聞いた。
「真珠腫性中耳炎は、実は腫瘍ではなく炎症です。耳管の機能が低下して、あくびや唾を呑みこんでも耳管が開かないため空気が入らず、よって中耳の換気が悪くなると中耳腔(ちゅうじくう)が陰圧になります。
これが真珠腫性中耳炎の主な原因と考えられています。こうなると鼓膜が中耳側に引っ張られ、鼓膜の上部にポケットができ、そこに角質層が溜まり、炎症を起こしたのが真珠腫です。光沢のある白色で、真珠に似ているところから名付けられました」
真珠腫性中耳炎の初期は、ポケット内で細菌が繁殖し、耳だれや耳閉塞感(じへいそくかん)などの症状が出る。進行すると中耳腔の骨を侵食して破壊する。中耳には音を伝える耳小骨(じしょうこつ、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)という体の中で一番小さい3つの骨があり、この骨が次々に破壊されると伝音難聴になる。さらに内耳まで侵食されると三半規管が破壊され、めまいが起こり、蝸牛(かぎゅう)まで侵食が進むと耳鳴りや難聴が起こる。
他にも中耳を走っている顔面神経も影響を受け、顔面神経麻痺になることもある。また、中耳腔には乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)という蜂の巣のような形の骨で構成された部分がある。この骨が侵食されると髄膜炎や脳炎を起こすこともある。CTが普及する前は、髄膜炎を起こすケースもかなりあった。