アイドルから女優へ。言うは易く行うは難し、が現実だが、さて国民的センター・前田敦子の場合はどうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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あっちゃんが、深夜枠で暴れている。“深夜の昼ドラ”を標榜する異色ドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』(水曜24時10分TBS系)の中で。
キスシーンやベットシーンの連発、三角関係のドロドロ。見かけ上は、スキャンダラスでエロい刺激作。だけれど実は、細かな作り込みと丁寧な仕掛け、遊び心満載の秀作。どこかスカっと醒めている主人公の「毒島ゆり子」。そう、前田敦子が演じる不思議な透明感漂う人物像が、面白い。
かつてはAKB48の選挙で1位を獲得し正真正銘の人気アイドルであり、写真集ではペコちゃんの表情でファンを魅了。という数々の「過去の栄光」からあっけらかんと脱皮した、新しいあっちゃんがそこにいる。
物語は、超恋愛体質のかけ出し政治記者・毒島ゆり子を軸に回っていく。彼女には生きる上での奇妙な「ルール」が3つ。
・幼い頃、父親の不倫を目撃しトラウマに。だから不倫は絶対ダメ。
・とは言いつつ超のつく恋愛体質で、常に複数の彼氏がいないとダメ。いつ男に裏切られてもいいように準備。
・二股、三股を掛ける時には、必ず相手の男に宣言する。
そしてゆり子は、スクープ連発の先輩政治記者・小津翔太(新井浩文)に惹かれていく。だが、実は小津は既婚者だった……。
「毒島」は「どくじま」ではなく「ぶすじま」と読ませる。性格ブス、「毒ある人格」ということも含んだ凝った主役名だ。古来よりトリカブトからとれる毒は「附子」(ぶす)と呼ばれてきた。その毒は口に含むと神経系の機能が麻痺して無表情になるがゆえ、「附子」は「ブス」の語源とされるのだとか。
という一筋縄ではいかない脚本の「ねらい」も理解しあっという間に不可思議な人物になりきっている前田敦子。「ぶす」という役名にひるむこともなく体当たりする勇気に、一票入れたい。
少女的であり悪魔性も持ち、破壊力があってグズグズしてて……含みのある役を演じているだけではない。「政治記者」役というのも、ミスマッチゆえの面白さ。失礼かもしれないが、前田敦子のイメージと「記者職」「ジャーナリスト」はまったくもって乖離している。が、そんな先入観にも足をすくわれないあっちゃん。次々に「新しい自分」へとジャンプしていく潔さが、このドラマの推進力になっている。