世界を揺るがす「パナマ文書」に中国共産党の現・元幹部クラスの9人の名前があることが判明した。中国当局はネットで「パナマ文書」関連の言葉を閲覧禁止とし、徹底的に隠蔽している。習近平国家主席がそこまで過敏に取り締まるのはなぜか。中国ウオッチャーのジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰氏が分析する。
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いま中国は経済発展の踊り場に差し掛かっており、その処方箋はいまだに見えない状態にある。いわば持病を抱えた中国社会は、ほんの小さな“ウイルス”でも混入すればさまざまな合併症を引き起こし、命を落としかねない。
当然、「パナマ文書」にも神経質にならざるを得ない。習近平の姉の夫(義兄)の名前が挙がったことから、「習近平が親族を使って不正蓄財をしているのではないか」と疑惑の目を向けられているからだ。隠語として流行した「姉の夫」をネットで削除対象にしたのも、そうした危機感の表れだ。
中国全土に澱のように溜まった不満のガスは、各地で散発的に起こる、デモや暴動の範囲に留めておきたいのが習近平指導部の切なる願いだ。
彼らは人民の不満が「パナマ文書」と結びつき、大きなうねりになることを最も恐れている。「アラブの春」を見て学んだ共産党幹部たちは、ネットがその引き金になることをよくわかっている。ネットは、イコール「人民のパワー」である。
中国は「共産党が動かしている」とつい見てしまいがちだが、大きな間違いだ。中国を動かしてきたのは人民のパワーに他ならない。共産党をいつでも打倒する力を常に持っているのが、人民なのだ。
文化大革命が起きたのは、毛沢東に力があったわけではなく、人民の力を味方につけたからだった。今後、人民が一つの方向に向かって動くかどうかが、中国の明暗を分ける最大の要因なのである。
だからこそ、習近平はポピュリズム(大衆迎合主義)の政治を行ってきた。