人民解放軍は中国共産党の力の源泉であり、13億人を治める巨大権力の象徴である。長年、政治闘争の舞台となり、汚職など腐敗の温床ともなった。その伏魔殿を、習近平・中国国家主席は「反腐敗闘争」で発揮してきたリーダーシップで大きく変革しようとしている。
そこに死角はないのか。防衛省防衛研究所主任研究官の増田雅之氏がレポートする。
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中国人民解放軍内部からの強い反発が予想されたにもかかわらず、習近平はいかにして軍改革を進めることができたのか。結論を言えば、政権発足以来の「反腐敗闘争」で敷いたレールの上だからこそ、可能だった。
特に、軍制服組のトップ徐才厚の摘発は、習近平の軍改革に関する「不退転の決意」を内外に示した前哨戦に位置付けることができる。習の周到な作戦が奏功し、いまのところ軍上層部から改革への異論は聞かれない。
一方、未曽有の改革は火種も残している。特に注目すべきは「海」「空」「ロケット軍」と同等の位置づけになり、軍における地位が相対化された陸軍の動向だ。
今後、四総部に代わる15部門のトップ人事で「脱・陸軍中心主義」が進むことが予想される。現状は、その主要ポストは横滑りで陸軍を配置している。未だ定まらない部門間のパワーバランスや人事の動向一つで、陸軍の不満が高まりかねず、2017年の次期党大会に向けてはますます目が離せない。
退役軍人の処遇も大きな不安要素だ。習近平は一連の軍改革で兵力30万人の削減計画を明らかにした。当面、地方政府や国有企業が受け皿となり、退役軍人の配置転換や再雇用が進むだろうが、経済が悪化するなか、30万人もの受け皿を本当に用意できるのか。
それがうまく行かなければ、再就職できない“リストラ軍人”が政権への不満を募らせるのは必至だ。年間10万件以上の集団抗議活動が行われる現在の中国で、膨大な数の退役軍人がデモに加担すれば、地域社会の不安定化は避けられないだろう。