◆“檀家回り”はしない
業界批判も厭わない野元氏の姿勢は、取材スタイルにも表われている。スポーツ紙の競馬担当記者がいう。
「多くの競馬記者は“檀家回り”で情報を集めます。檀家とは厩舎のことで、記者は調教師や厩舎スタッフと酒を飲んだりしながら親しくなって、馬の状態などをこっそり聞くことで特ダネや大穴情報を書く。
だが、野元さんは厩舎回りをしない。有名人で関係者からも一目置かれているので、馴れ馴れしくしなくても、適度な距離を保った取材ができる。実はスポーツ紙や専門紙の大穴欄は厩舎との“お付き合い”で書くケースが多く、ファンもそれを知っている」
彼はインタビューで好きな言葉を「単独者」と答えている。競馬記者の仕事は、最終的に自分が責任を取る覚悟を持たなければいけないと考えているからだろう。では、「よく当たる」秘密はどこにあるのか。前出のスポーツ紙記者が語る。
「野元さんは最後の『追い切り』には必ず顔を出しているのですが、そこでの観察、分析に優れているというのが同業者の評価です。追い切りとはレースの3~4日前に行なう、最後の追い込みの調教。スポーツ紙や専門紙のように追い切りの記事を書くわけではないので、野元さんはここで直前の馬の調子を自身の目で確かめて予想しているのでしょう。
また、彼はそれぞれの競馬場の特徴を深く研究しているようです。以前、難しいと言われるある競馬場のコースについて、『注意点』と『勝負所』を騎手から熱心に取材していた」
競馬ファンが野元氏の予想との「付き合い方」を語る。
「専門紙は読者受けを狙って『大穴』『中穴』『本命』と複数の記者に役割分担して予想させるため、予想が安定しない。全国紙の日経は大穴を狙う必要もないため、本命を中心とした堅実な予想になる。的中率が高いので、専門紙とは別にチェックしています」
投資家が株価の変動を分析するために熟読する日経には、思わぬ「宝の山」がひそんでいる。
※週刊ポスト2016年5月27日号