1986年にウクライナ(当時はソ連)で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故により、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアなどを放射性物質が汚染し、様々な被害をもたらした。なかでも、子どもの甲状腺がんが増加していることが知られている。
長年にわたりベラルーシの放射能汚染地帯への医療支援を続けてきた「日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)」の代表でもある鎌田實医師が、先月、ベラルーシを訪れたことをきっかけに福島が学ぶべきことは何かについて論じる。
* * *
先月4月、ぼくはベラルーシを訪ねた。原発事故から30年のベラルーシから、福島が学ぶべきことは何か、知りたいと思ったのだ。まず、子どもの甲状腺がんのことが気になった。ウクライナとベラルーシでは、原発事故当時0~18歳だった人たちの甲状腺がんが7000例を超えた。
多くは子どものときにがんが見つかるが、30~40歳代になってから見つかることもある。30年経った今も、そして今後も甲状腺検診が必要な「要注意者」だというのは、ベラルーシの甲状腺の専門医ユーリ・ジェミチェク医師だ。ミンスク甲状腺がんセンターの所長で、ミンスク第一病院の腫瘍外科部長である。若いとき、ぼくたち日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)の招待で、信州大学を中心に、甲状腺外科の最新医学の研修を受けた経験もある。
ミンスク第一病院では毎年1000人の甲状腺がんの手術を行なっている。48歳以上の甲状腺がんも増えているが、原発事故と関係があるかどうかは証明されていないと話してくれた。
実際、ベラルーシでは、放射能汚染が少ないところでも、子どもの甲状腺がんが見つかっているという。「わずかなI-131が刺激となって、長い時間をかけて甲状腺がんになる可能性はあり得る。福島の放射性ヨウ素の放出量がチェルノブイリの約10分の1だからといって、安心しないほうがいい」とジェミチェク医師は話した。
そこで、彼にどうしても聞きたかったことを訊ねた。
現在、福島県の子ども(事故当時18歳以下)を対象にした甲状腺検査は二巡目を終え、116人が甲状腺がん、50人ががんの疑いと診断されている。予想以上に多い。福島第一原発事故と関係ないと、言いきれないのではと聞いた。