『週刊ポスト』(2016年5月27日号)では、日本企業の経営者を長年にわたって観察しつづけてきた経営評論家、経済ジャーナリストなど21人と匿名の経済記者数人に、故人を含めて「彼こそ名経営者」といえる人物を1~3位まで挙げてもらい、得票数によってベスト10を発表した。
その結果、現役の経営者は4位の孫正義・ソフトバンク会長と9位の永守重信・日本電産会長兼社長の2人だけで、1位の松下幸之助氏など故人が多くランクインした。現役の経営者の中にも「優秀」と称される人物は数多くいるはずなのに、おしなべて評価が低いのはなぜなのか。双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦氏がいう。
「昔の経営者に比べて、いまの経営者は明らかに小粒になっている。私は1990年代前半に経済同友会の職員を務めていましたが、当時の財界人には文字通り“風圧”を感じたものです」
なぜ経営者が小粒になったのか。経済ジャーナリストの片山修氏は次のように分析する。
「松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫ら戦後のカリスマ経営者に共通するのは“攻めの経営”を貫いたことです。しかし、経済成長が鈍化してデフレ時代に突入すると、思い切ったチャレンジができなくなり、無難な道を選ぶ“守りの経営”が主流になった」
カリスマ創業者が第一線を退き、生え抜きの「サラリーマン社長」が経営を引き継いだ影響も少なくない。
「ゼロから会社を立ち上げたオーナー社長とサラリーマン社長とでは、リスクの取り方がまったく異なります。オーナー社長はその情熱を120%使い切り、夢の実現に向けてまっしぐらに走ることができる。
それに対して、サラリーマン社長は失敗すれば自分の地位が危うくなるから、リスクを取ることができない。自ずと調整型の意思決定をすることになりますが、それでは新しいビジネスは生まれません」(片山氏)
バブルが弾けた1990年代後半以降、日本企業の多くは雇用、設備、債務の「3つの過剰」を解消し、強固な財務体質を確立する方向に舵を切った。現在、経営トップに就いているのは、この「3つの過剰」対策に奔走し、実績を上げてきたエリート社員も多い。彼らはリストラや人材、研究開発への投資抑制など“守り”には強いが、攻める力には乏しいといわざるを得ない。