【著者に訊け】蛭子能収氏/『僕はこうして生きてきた NO GAMBLE, NO LIFE.』/コスモの本/1300円+税
テレビ東京系列の『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で再ブレイクした蛭子能収の勢いが止まらない。2014年8月に出版した『ひとりぼっちを笑うな』が10万部超えのヒットを記録してからは、立て続けに本を執筆。「視聴率男」にして、「ベストセラー作家」というモテモテ振りだ。
このたび出版した『僕はこうして生きてきた』では、大好きなギャンブルのこと等を語りつつ人生をも語る。“エビス本”は立派なことなど何一つ書いていないのに、読後、生き方を指南されたような気になってしまうから不思議なのだ。大事なことは全部、蛭子さんが教えてくれる。
言いにくいことをサラリと口にする。
「僕はお金がある人が勝者だという考え。ないよりはあった方が幸せになれる」
そこそこお金を持っていて、その上で、こんな発言をして嫌味に聞こえない人はそうはいない。
蛭子が敵を作らないのは、金持ちであることを誇示しないからだ。「高級」と名の付くものには、まったく興味を示さない。なんてことのない国産のクオーツを何十年も使い続け、どんな服装のときも茶色い革のウォーキングシューズを愛用し、車は「ヴィッツで十分」と言う。一時期流行った、ちょっと無理してでもいい物を持とうとする「ちょい悪オヤジ」とは正反対だ。そんな蛭子にとって、カッコいい男とは──。
「地味な存在で、誰にも見向きもされないんだけど、お金はたくさん持っているというのが好きなんです」
やはり、最後は金。蛭子は、人なら当然持っているだろう金銭欲を否定しない。しかし、そこには生活者として、常にひたむきでありたいという蛭子なりの美学がある。
「生活のために働いている人が好きなんです。ボランティアでもいいから、俺はこれをやりたいんだっていう人は、あんまりカッコいいと思わないですね」
蛭子にとって生きる上で大切なものは、もはや言わずもがなだが、まずはお金で、その次が自由だ。本業の漫画家としては、イラスト等を含めると月10本の連載を抱え、40、50万円を稼ぐ。そして、本人いわく「アルバイト」だというタレント業で、漫画の半分以下の労働力で漫画の倍以上のお金を稼ぐ。テレビの仕事は、生活のためだと割り切っている。
「そう思えば大抵のことは耐えられる。本当はテレビには出たくないんです。世間に自分の顔をさらすの、好きじゃないんで。でも仕事って本来、辛いもんじゃないですか」
お金を得れば、人生で二番目に大切なものも自ずと手に入る。お金と自由の二つがそろって、初めて可能になるもの。それが蛭子にとってはギャンブルだ。たまの休みには、10枚の万札を裸のままジャケットの内ポケットに突っ込み、平和島競艇場へ出かける。そこには世界一幸福な男の姿がある。
「ギャンブルも、もちろん儲けるためにやるんですよ。負けてもいいなんて思ってない。ギャンブルでも、どんどんお金が減っていく人は負け犬ですね」
──蛭子さんも、ほとんど勝っていないのでは。
「だから、僕は負け犬なんです(笑い)」