明治が3月末で「サイコロキャラメル」の全国販売を終了したとのニュースが、波紋を呼んでいる。発売から89年の歴史を持つサイコロキャラメルは、サイコロのデザインの紙箱の中にキャラメルが入っており、食べた後に遊べるお菓子として人気を博した。その販売終了を嘆き、存続を強く訴えるのが桜美林大学教授で理学博士の芳沢光雄さんだ。
過去にAKB48選抜メンバーを決定する「じゃんけん大会」で、確率論から総選挙ベスト16が選抜入りする人数期待値を的中させるなど、遊びと融合させた数学を得意とする芳沢さんは、今こそサイコロキャラメルが必要だと強く訴える。芳沢さんが、目に涙を溜めて訴えた思いとは――。
* * *
今、子供や若者の空間図形の認識がとても弱くなっていて、技術立国日本の将来が危ぶまれています。いわゆる「ゆとり教育」などの影響で、中学校、高校での空間図形に関する学びの量が減ったことの弊害です。
また、昔ながらの積み木やプラモデル、あや取り、知恵の輪、折り紙、戸外でのボール遊びといった空間的な遊びがものすごく減って、テレビゲームや昨今のスマホゲームによって、子供の遊びが極めて平面的になってきています。ゲームの画像は、仮に空間的に見える3D画像であっても見ている部分は平面です。空間認識能力が育たないと、いろいろな物を作る力が弱くなります。この問題の影響は、様々なところに出ています。
私は近年、小学生がちょっとした階段でつまずいてひっくり返ったなどの理解に苦しむ話をよく耳にして、子供たちの空間図形の認識が相当弱くなっていることを懸念していました。追い打ちをかけたのが、2010年の全国学力テストです。中学3年生の数学で、立方体の2つの面の上に引いた対角線mとnの長さを図入りで比べさせ、「mがnより長い」「nがmより長い」「同じ」「どちらとも言えない」の4つから選ぶ問題がありました。私はこの問題を見て、日本の子供をばかにしていると思ったんです。ところが全員満点だと思って結果を見たら、正解の「同じ」と答えたのは55.7%です。愕然としました。44万人が受けた試験で、しかも幼稚園生や小学生ではなく中3ですよ。これは危機的な状況です。
サイコロキャラメルを食べて遊んだ経験があるなら、「同じ」を選ぶでしょう。それで私は、全国の教育研修会や出前授業に行くたびに、サイコロキャラメルを使って空間図形の認識を育む重要性を訴えています。先生方も、子供たちにサイコロキャラメルを見せて立方体を学ばせると探してくれていたんです。それが生産終了では、涙が出ます。実際に、明治の窓口に電話をしてその重要性を訴えたほどです。
サイコロキャラメルにはいろいろなメリットがあります。まず美味しく食べて、サイコロで確率的な遊びもできる。この種の手を使う遊び自体も減っていますが、一番重要なのは、包装紙を分解して図形の展開図を学べること。要するに生活に密着した、遊びや生きる教材なんです。数学は数学、勉強は勉強と、遊びや生活と切り離して考える教育は芳しくない。今この複雑な社会は、日本特有の縦割りと専門性だけではだめで、いろいろと物事を結びつけて考えていくリベラルアーツの発想が必要です。これは、日本がこの先発展していく上で解決すべき問題の一つだと思います。有名企業の信用を無くす問題が続いていますが、一から技術立国日本を本気になって再建するために、教育から考えなくてはいけないところに来ているんです。