英ガーディアン紙が報じたところによれば、東京五輪招致活動に際して、開催地決定の投票権を持つIOC(国際オリンピック委員会)委員に総額2億3000万円が流れていたという。同紙では広告代理店最大手「電通」が繰り返し登場する。しかし電通の知名度は、関わりの有無によって大きく分かれる。関係する人には「巨大な影響力を持つ会社」だが、直接関わりがなければ「何をやっているかよくわからない会社」に見える。
無機質な説明をすれば、「日本最大の広告代理店」だ。年間売上高は4.6兆円。業界2位の博報堂DYホールディングス(同1.1兆円)を引き離し、国内シェア25%を占める。
一般的にはテレビCMや新聞・雑誌広告の企画・制作や営業を行なうビジネスで知られ、テレビ局や新聞社、出版社などメディア界や、スポンサー企業にとっては欠かせない存在となっている。だが、「自社の宣伝」をしているわけではないので、視聴者や読者に電通の企業イメージは沸きにくい。
しかも社員4万7000人の巨大組織における最大の「花形部署」はいわゆる「広告」を扱う部署ではなく、「スポーツ局」といわれる。ジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。
「約150人の局員はそれぞれ得意のスポーツ分野を持つ精鋭で、テレビ放映権を扱い、有名選手をサポートする。イベントやスター選手を招致してスポンサーを探し、グッズ販売も企画して収益化するなど、あらゆるスポーツをビジネスに変えてきた」
電通と国際スポーツイベントの関わりの嚆矢は、1977年の「サッカーの神様」ペレの引退試合だ。
「サッカー未開の地だった日本に世界的ヒーローを招き、国立競技場は超満員となった」(同前)
史上初の民間運営方式で進められた1984年ロサンゼルス五輪では、日本でのエンブレムやマスコットキャラクターの使用許諾権などの独占契約を結んだ。以降、「電通に頼まなければ、五輪ビジネスは成功しない」という“常識”が、スポーツ界やテレビ局に浸透した。その後、2002年の日韓W杯でも招致や運営面で電通は力を発揮した。