三菱自動車、スズキと相次いで発覚したクルマの燃費不正。〈各メーカーがクルマのパンフレットに載せる“カタログ燃費”より、実際に走行した場合の“実燃費”は平均2割悪くなる〉──日本自動車工業会も冊子でこんな数値を示すほど、いまやカタログ燃費はアテにならないデータとして業界内では周知の事実となっていた。
しかし、なぜユーザーを欺くような燃費表示が長らくまかり通ってきたのか。燃費計測に詳しい自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が業界の「暗部」に鋭く斬り込む。
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三菱自動車の“燃費偽装”で激震が走った日本の自動車業界と自動車行政。5月19日に日本自動車工業会会長に就任した日産自動車の西川廣人副会長は就任会見で「あってはならないこと」と語った。
また、三菱自と燃費審査に必須の項目である走行抵抗値を計測するのに法律で定められた方法を取っていなかったと発表したスズキ以外の各メーカーは、おしなべて「我々は法令に則っている」とコメント。そこからは業界全体が疑念の目で見られることだけは避けたいという思いが透けて見えるようだった。
が、クルマのユーザー側から見れば、彼らの鼻白む姿勢は失笑モノだったことだろう。走行抵抗値の改ざんは言うまでもなく法令違反であり、糾弾されるのも当然のことなのだが、それも三菱自が自分から発表しなければ、誰も与り知らなかったこと。スズキが走行抵抗値を法定外のやり方で計測していたこともしかりである。
国土交通省が定め、カタログ燃費の基準となる「JC08モード燃費」は実際に路上を走らせるのではなく、ローラーの上にクルマを乗せて計測する。しかし、単にクルマをローラー上で空走させるだけでは燃費を正しく測れないため、ローラーに余計な抗力を付け加えて、路上に近い状態を作り出す。
その抗力をどのくらいにするかを決める要素が車両重量と、クルマが走っているときにどのくらいの割合で速度が落ちる、言い換えれば運動エネルギーが失われていくかを表す走行抵抗値だ。その重要な数値の片割れである走行抵抗地が自動車メーカーの自己申告で、国交省はその値が正しいかどうかを調べもしないのだ。
その気になればごまかし放題の数値について実際にごまかしが発覚した以上、他のメーカーが「自分たちはちゃんとやっている」などと言っても説得力ゼロだ。何となれば、自動車メーカーでこれまで企業不祥事、スキャンダルを起こしたことがないところなどひとつもないのだ。