警察庁のまとめによると2003年までの過去25年で親子、配偶者同士など「親族間」の殺人は検挙件数全体の40%前後で推移してきたが、2004年に約45%に上昇。2012年、2013年までの10年間でさらに増加し約54%となっている。東京家政大学名誉教授・樋口恵子さんは、家族間の争いが急増している原因をこう分析する。
「長寿社会で、家族とつきあう時間が物理的に長くなってしまい、ギクシャクするようになりました。また、昔はきょうだいも多く、家族の中で集団を形成したり近所の人たちとのつながりもありましたが、今はそれがない。家族関係が純化しすぎて難しくなってしまったんでしょうね。家族がうまくつきあっていく新しい文化を、今われわれが作り出さなければならない」
いつしか、「家族だから」といって、他人には当たり前に取るコミュニケーションを省き、「わかってくれているはず」とか「あなたのために」などと一方的な自分の思いを押しつけていなかったか。常子たちが交わす家族の間の濃密な会話に、そんな反省も湧き上がる。
そこで必要になるのは、相手を思うことではないだろうか。相手が家族だろうが他人だろうが、主人公・小橋常子が、そしてモデルとなった大橋鎭子さん(雑誌『暮しの手帖』創刊者)が、変わらず真摯に向き合って幸福な関係を築いていったことに、私たちが直面する家族問題を解決するヒントがある。だからこそ『とと姉ちゃん』は私たちの胸を打つのだろう。
「どうしたもんじゃろのぉ」。家族が困っていたら、勝手に慮るのではなく、声をかけて、一緒に考えよう。そしてできる限りのおせっかいをしよう。いつまでもいるように見えて、いついなくなるかもしれないのが、かけがえのない家族なのだから。
※女性セブン2016年6月2日号