〈GDP実質1.7%増〉──5月18日、各紙の夕刊トップにそんな見出しが躍った。GDP(国内総生産)は国の経済規模を示す指標(一定期間に生み出したモノやサービスの付加価値の合計)で、要は“GDPが増えていれば経済は成長している”と理解される。
毎年12月に確報値が発表される以外に、3か月ごとの速報値も発表される。18日は内閣府が今年1~3月の速報値を発表。前期比0.4%増(=年率換算で1.7%増)で、半年ぶりにプラス成長へと転じたことが大きく報じられた(物価変動の影響を除く実質ベース、以下同)。信州大学経済学部教授の真壁昭夫氏はこういう。
「今度の速報値の数字を見て、『絶妙だな』という印象を持ちました。まず、2四半期ぶりにプラス成長に転じたことで、野党からの“アベノミクスの失敗で景気が後退している”という批判をかわすことができます。
しかもこの水準の数字であれば、安倍政権は2017年4月に予定されている消費増税を延期する“口実”にも使うことができます」
安倍首相はこれまで繰り返し、「リーマンショック級の経済危機がない限り、消費税10%への引き上げを実施する」と口にしてきた。7月参院選前に消費増税の延期が発表されるとみられているが、プラス成長下での延期となれば、過去の自身の発言と矛盾してしまい、野党による追及の糸口を与えかねない。にもかかわらず今回の速報値が「口実に使える」とはどういうことか。真壁氏が続ける。
「2016年は、閏年なので2月が1日多い。これが大きな意味を持ちます。個人消費が増えればGDPは押し上げられますが、2月の日数が1日増えたことで、そのぶん食費などの支出が必ず増える。この押し上げ分が約0.3%分に相当するといわれています。
つまり、発表されたプラス0.4%という数字は、閏年効果を差し引くとプラス0.1%にとどまるわけで、“事実上のゼロ成長で消費税を上げられる状況ではない”と強弁できる。GDPの数字が良すぎても悪すぎても困る状況の中、政権にとって絶妙な数字が出てきたのです」
安倍政権が前回、2014年11月に消費増税の先送りを表明した時も、直前のGDP速報値で景気後退が明らかになったことが理由だと説明された(マイナス0.4%、2014年7~9月分)。今回も同様のシナリオなのか。