一般にディープな趣味と思われてきた世界が、最近はポップなあり方も受け入れる傾向がある。たとえばモデルガンを手に野山を駆け回るサバイバルゲームは、最近では若い女性や子ども連れでも楽しめるようになった。同じように、老若男女さまざまな楽しみ方ができるようになった「鉄道」趣味。SNSが鉄道趣味の内容を劇的に変えたことについて、小川裕夫氏がリポートする。
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これまで、鉄道はディープな趣味とされてきた。そうした鉄道趣味が変貌しつつある。それを如実に示しているのが、今年4月29日にオープンした。京都市の京都鉄道博物館だ。同館は同地にあった梅小路蒸気機関車館と大阪市にあった交通科学博物館とが統合する形で新たに誕生。オープンから1か月も経たずに来館者は10万人を突破した。
2007(平成19)年に埼玉県さいたま市にオープンした鉄道博物館にも言えることだが、最近リニューアルしている鉄道系の博物館は遊びの要素をふんだんに盛り込み、ディープではない鉄道ファンを取り込もうとする意図が見え隠れしている。京都鉄道博物館もSLに乗車できたり、食堂車で駅弁を味わうことができるなど、大人から子供まで楽しめる仕掛けが満載だ。
京都鉄道博物館のオープン日と重なる4月29日、そして30日の2日間にわたって千葉県千葉市の幕張メッセで「ニコニコ超会議2016」が開催された。2012(平成24)年に初開催されて以降、「ニコニコ超会議」は毎年ゴールデンウィークに催される恒例行事になっている。今年で5回目となる同イベントは、来場者数を常に更新。今年の来場者は15万人を突破している。
ニコニコ動画では“踊ってみた”“歌ってみた”“ゲーム実況”など、人気コンテンツが充実している。「ニコニコ超会議」は、そうした“踊ってみた”“歌ってみた”“ゲーム実況”などを配信するユーザーと直に会えるチャンスでもあり、いつもはオンライン上でしか接する機会がない人と、実際に顔をあわせるオフ会の要素を含んでいる。
そうした「ニコニコ超会議」の数あるブースの中で、独特の雰囲気を放っているのが“超鉄道”、いわゆるディープな鉄道ファンが集まる一画だ。
“踊ってみた”“歌ってみた”“ゲーム実況”などと比べると、”超鉄道”はそれらと比べ物にならないぐらいマニア度が高い。実際、2013(平成25)年の「ニコニコ超会議」では、ナインティナインの岡村隆史さんがインターネット番組の取材で“超鉄道”ブースを訪れているが、ステージに上がった岡村さんは“超鉄道”で繰り広げられる鉄道話がマニアックすぎて話についていけず、完全に思考停止状態に陥っていた。
そんなディープな“超鉄道”を総合プロデュースしているのは、ミュージシャンの向谷実さん。向谷さんはヒット曲『ASAYAKE』などで知られるカシオペアの元キーボード奏者でタレント活動もこなしているが、そうした芸能面以外にも鉄道の運転を実車さながらに体験できる「トレインシミュレーター」というゲームの制作者、鉄道会社の発車メロディなども手掛けている音楽家という顔も持つ。そして根っからの鉄道ファンでもあり、テレビ朝日系列で放送されている「タモリ倶楽部」の鉄道企画で頻繁に出演している。
「ニコニコ超会議」の鉄道ブース担当者によると、ニコニコチャンネルに“向谷倶楽部”を開設していたいきさつから、鉄道ブースの総合プロデュースを向谷さんに依頼することになったという。向谷さんがプロデューサーになったことで、”超鉄道”ブースが実現しただけではなく、会場最寄りの海浜幕張駅へ特別経路で到着できる寝台夜行列車「ニコニコ超会議号」の運行にまで発展した。