近頃、歌謡曲に注目が集まっているという。原田知世(48才)が往年の歌謡曲をカバーしたアルバム『恋愛小説2~若葉のころ』は、オリコン週間ランキング4位(5月23日付)を記録。桑田佳祐(60才)も6月25日に「偉大なる歌謡曲に感謝」と題して番組を放送する。さらに、タワーレコード新宿店は1980年代のアイドル歌謡曲コーナーを拡張するという。
なぜ今、歌謡曲が愛されているのか。音楽評論家の田家秀樹さんは、「当時聴いていた人たちが、思春期を懐かしむ年代になっています。歌謡曲に、みずみずしい年齢だからこそ感じられた甘酸っぱい気持ちを思い出しているのでしょう。その詞の世界と自分の体験が重なっていなくても、蘇ってくる時代の空気を味わえるのが、魅力なのでしょう」と話す。
そこには30年という年月が変えた私たちと日本社会の彼我がある。学生や初々しい社会人で、根拠もなく明るい未来が待っていると信じられたあの頃。その頃聴いていた歌謡曲が私たちを当時に引き戻し、力を与えてくれるのだ。
都内在住の田中久美子さん(仮名・53才)は、今でも松田聖子(54才)の『赤いスイートピー』を聴くと、初デートの情景がありありとよみがえると言う。
「鎌倉へ行って、江ノ電に乗って。電車に揺られているうちにうとうとして、気づいたら彼の肩に寄りかかって寝ていました。年上の彼の服からはあの歌詞のように、ちょっとだけたばこのにおいがして、まだ10代だった私はドキドキしてしまいました」
神奈川県の陣内仁美さん(仮名・54才)は、チェッカーズの『ギザギザハートの子守唄』が弟のかつての姿に重なると話す。
「4つ年下の弟は高校生のとき、結構ワルかったんです。制服は長ランを着ていたし、けんかはするし家出をするし。そのたびに家の空気が張り詰めて、雰囲気が悪くなっていました。その時のことを思い出すと、頭の中で必ず流れるのがこの曲。当時“弟のことみたいだな”と思って聴いていたからでしょうね」
それぞれの胸に思い出の一曲を刻んだ80年代はアイドルによる歌謡曲があふれた時代だった。80年に松田聖子、田原俊彦(55才)、近藤真彦が歌手デビュー。1982年には中森明菜(50才)、小泉今日子(50才)が続き、アイドルブームを巻き起こしていく。その中でも別格だったのが聖子と明菜だ。当時の中高生は、聖子派と明菜派とに二分されていた。放課後になれば、教壇をステージに彼女たちの歌を歌う。それが何より楽しかった。