俳優・三浦友和(64)とはどんな役者なのか──。山口百恵とのゴールデンコンビによるドラマ「赤いシリーズ」や『伊豆の踊子』などの一連の映画作品に親しんできた人たちにとっては、今なお“永遠の二枚目”であろう。だが、その話を本人に向けると、きっぱりと否定した。
「自分は二枚目じゃありませんよ。皆さんが二枚目に求めているのは、勧善懲悪のヒーローです。一瞬たりとも隙を見せず、二枚目を演じきる……。そんなすごい俳優は、高倉健さんが最後なんじゃないですか。自分にはそんな根性もないので(笑い)、二枚目より“面白い役”を選んでしまう」
そんな三浦が出演する映画『64─ロクヨン─後編』と、主演映画『葛城事件』が6月に立て続けに公開される。前者では、物語のキーとなる刑事部捜査一課長を、後者では、ダメな父親を演じた。
特に『葛城事件』で演じる葛城清は、世間のイメージとは真逆の三浦友和ではないか。家族を抑圧し、行動を強制する。口答えすれば殴る。家族は崩壊の一途を辿り、妻は精神を病み、長男は行き場をなくし追い詰められる。引きこもりだった次男は無差別殺傷事件を起こし、死刑囚に──。
「なぜこんなひどい父親を演じたのかと、よく質問されるんですが、一言でいうと、弱くてダメな人間を演じるほうが面白いからですよ。むしろ『ロクヨン』の刑事役のほうが難しい。あの役は生活感がないので、演じにくいんです。『ロクヨン』はだから、主演の佐藤浩市くんの映画。僕があと10歳若かったら、主演をオファーされなかったことを悔しがるでしょうけど」
三浦友和も嫉妬するのかと問うと、「当然ですよ」と返ってきた。
「他の人が演じているのを見て、羨ましいと思う。俳優なら当然じゃないでしょうか。『葛城事件』を引き受けたのも、そういう理由です。この役は絶対、他の人にやらせたくない。他の俳優がやるのを見たら嫉妬する。そう思ったから。でも実は最初、オファーをお断りしたんですけどね(笑い)」
三浦は、この先の有限の俳優人生を「素晴らしい作品に捧げたい」と考えている。納得のいく作品にするために、映画の場合は企画の立ち上げから参加することも増え、本作のオファー直前まで、ある映画の企画にかかりきりだった。
「ところが、2年かけた企画が実現寸前でダメになってしまって。そのタイミングで、『葛城事件』の台本をいただきました。台本に目を通しましたが、正直、仕事をする気が起きなくて……。それで一度お断りしたのですが、台本が気になり始めた。読み返すと、やはり面白い。それで、『他に声をかけていないなら、ぜひ監督にお会いしたい』とこちらからお願いしたんです」
その時の初対面の印象を、赤堀雅秋監督が語る。
「お会いした瞬間に、『オファーを出したのは間違いじゃない。この人しかいない』と確信しました。本当に鳥肌が立ったんです。スターでありながら俳優としての匿名性─誰にでもなれる懐の広さがある。主人公の葛城清という男の強さと弱さ、愛情の深さと希薄さ、そうした複雑な感情を演じられるのは、三浦さんしかいない、と。生意気なようですが、思わず、『これは三浦友和の代表作になります』と口走っていました」