先般発生した熊本大震災で「ライオンが檻から逃げた」「朝鮮人が井戸に毒を投げた」などの悪質なネット上のデマが大きな問題になった。罪悪感なく卑劣な行動に走るこうした人々にはどんな特徴があるのか。著述家の古谷経衡氏が警鐘を鳴らす。
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この手のデマは昨年9月の茨城県の豪雨災害でも「外国人が空き巣を働いている」などの流言となってネット空間に伝播した。ふつう、天変地異で同胞が苦しんでいるとき、ネット上でデマを拡散するという行為は異常な心理である。が、これを行う側は異常であるとは思わないのでこうした卑劣を平気でやる訳だ。
このようなデマの発信者には、大きな特徴がある。彼らは愉快犯ではない。愉快犯とは自らの行為が犯罪であるという自覚があるから、身元を秘匿する。
しかしこうしたネットデマの発信者の多くは、自らの身元を堂々と開陳する一方、IPアドレスを偽装するという手間をかけないので、すぐに官憲の御用になる。学校や市役所のネット掲示板上の爆破予告などがその典型で、IPを欺瞞していないのですぐに逮捕される。
要するに、自らの行為に罪悪感を持たず、さりとてその結果、自らの行為がどのような形の社会的制裁を受けるかも想像できない。このような同じ人間種族とは到底思えない、異形の精神構造を持った人々のことを私は「知的クリーチャー(怪物)」と呼ぶ。
知的クリーチャーたちは、性別・年代・職業を問わず、私たちのすぐ隣に何食わぬ顔で潜伏している。彼らがなぜ知的なのかといえば、相応の社会生活を営んでいるからだ。
冒頭の「朝鮮人が……」は1923年の関東大震災の基礎知識が必要だし、「ライオンが…」は一応の画像探査能力を要求される事案だった。ネットを使いこなしているわけだから、知能そのものに問題があるわけではない。知的クリーチャーがわりと多く生息するのは、たとえば動画生放送の分野である。
堂々と自らの犯罪を、顔を出して全国に生放送する人々(生主)が後を絶たない。大幅な速度超過の運転模様をアップロードしたり、浅草の三社祭にドローンを飛ばすと宣言したり……。官憲が黙っているとでも思ったのだろうか。
案の定彼らは逮捕され社会的生命を失う。彼らが計画性のある愉快犯なら、巧妙に自らの身元を欺瞞するはずだが、それが無い。罪悪感がなく、すぐ先の未来を想像することもできない垂直的な思考。これが「知的クリーチャー」の持つ世界観である。