景気が良くなった実感はないが、ミニバブルの様相をみせる東京の不動産事情。経営コンサルタントの大前研一氏が、中国マネーによる東京ミニバブルの理由と、これからの見通しについて解説する。
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いま、東京の不動産市場はミニバブルの様相を呈している。不動産経済研究所の調査によると、2015年度の東京都区部の新築マンションの1戸あたり価格は6842万円、1平方メートルあたり単価は100.1万円で、2014年度に比べて1戸あたり810万円、1平方メートルあたり11.9万円も上昇し、すでにリーマン・ショック前の2007年度のミニバブル期を上回っているという。
2016年4月はさらに上がって1戸あたり価格が7318万円と一気に7000万円を突破し、1平方メートルあたり単価は111.3万円になった。今後も都心部や湾岸部で高層マンションが続々と計画されている。
その一方で、中古マンション価格の上昇が鈍り、ミニバブル崩壊を予測する声も出てきている。だが、私は、このミニバブルは当分続くと見ている。なぜなら、中国、香港、台湾、シンガポールなどの富裕層や企業のマネーが東京に流れ込んでいるからだ。東京は安全・安心で、空気がきれいで、交通が便利で、食事が美味しい。しかも、マンションの価格が中国やシンガポールに比べると、まだまだ安い。
たとえば、北京や上海のマンションの1平方メートルあたり単価は約400万円に達しているが、東京は高額物件でも200万円くらいだ。
中国マネーの流入は、世界的なものである。すでに本連載(第519回)で、習近平政権のトラ狩りや不動産バブル引き締めと元安傾向によって「この数か月で45兆円の中国マネーが海外に脱走」と書いたが、中国人が海外に持ち出したカネは今年1~3月の3か月で103兆円に達したとも言われている。
不動産というものは、国境を越えて交易する。たとえば、上海のマンションを売却して得た利益で東京のマンションを購入したり、その逆のことをしたりできるのだ。それが、今のアメリカのシアトルやハワイ、オーストラリアのシドニーなどでの中国マネーによる不動産の暴騰につながっているわけで、このブームは東京だけのものではない。
日本の富裕層や企業が1980年代後半のバブル期にハワイやロサンゼルスなどでコンドミニアムやホテル、商業ビルを買い漁っていたのと同じである。