各局がしのぎを削るニュース番組の現場。そこへ、政権側からの注文が目立つようになっている。特に今年2月、放送行政を司る総務省のトップ、高市早苗総務相の発言は、圧力として受け止められ、広く報じられた。
高市大臣は、放送局が政治的に公平性を欠く放送を繰り返す場合は放送法第4条に違反するとし「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の反応もしないと約束するわけにいかない」と発言し、“電波停止”をにおわせたのだ。
放送は、新聞や雑誌と異なり、国の認可事業だ。総務省が発行する免許を5年ごとに更新できないと放送を続けられなくなる。電波停止とはその免許を剥奪することを意味するもので、“反政権の姿勢”を貫く番組があると、その放送局は政府によって放送をできなくする──そう圧力をかけたと指摘されたわけだ。
元民放連職員で、立教大学社会学部メディア社会学教授の砂川浩慶さんは「高市大臣は法律の内容を理解していない」と言う。
この議論の中心にある放送法は、戦前の政府が言論弾圧していた過去を踏まえて制定されており、第1条ではその目的を《放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること》としている。
「いったい誰が、《放送の不偏不党、真実及び自律を保障》するのか。それは、放送局ではなく、政府です。政府が自律を保障しなくてはならないのです。また、第4条の“政治的に公平であること”という項が注目されますが、“意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること”という項もあります。つまりニュース番組には、視聴者に対して、考えるための材料を提供することが求められているのです。この観点で見ると、NHKは政府の考えを肯定するような報道が目立ちます。政治的公平という点でいえば、NHKは偏ったニュースを放送しています」(砂川さん)
つまり反権力の報道ではなく、親権力の報道こそ、政治的に公平ではないというわけだ。時間をかけた独自の取材で定評のある『報道特集』(TBS系)でキャスターを務める金平茂紀さんも次のように指摘する。
「政治が世論と違う方向に突き進んでいくときに政府に物申したからといって、それが公平性を欠くとはいえないでしょう」
ところが、反権力の姿勢だったと自認する『報道ステーション』(テレビ朝日系)の古舘伊知郎さんや、『NEWS23』(TBS系)のアンカーだった毎日新聞特別編集委員の岸井成格さんなど、番組内で政権に批判的な発言をしたキャスターが今春、次々と番組を降りた。そこには放送法でしばられたテレビ局への政権からの圧力があったからだという説が今も根強い。
「直接的なものはなかったけれど、あったか、なかったかでいえば、圧力はあったと思います。ただ、やり方が非常に巧妙で、『テレビ局の都合で決めました』となる」
そう話すのは、岸井さんだ。