さまざまな事情を抱えた子供らに無料、あるいは低価格で食事を提供する「こども食堂」が4月28日、熊本・慈恵病院内にオープンした。同病院は「こうのとりのゆりかご」(通称赤ちゃんポスト)というシステムを日本で唯一採用している。このオープンの背景にあったのは、深刻な社会問題となっている「子供の貧困」だった。
16.3%──厚生労働省が2013年に発表したこの数字は、平均的な所得の半分に満たない世帯で暮らす子供(17才以下)の割合だ。世界第3位の経済大国といわれる日本で、この子供の貧困率は、6人に1人という最悪の記録を更新した。
『子どもの貧困』(岩波新書)の著者で、首都大学東京都市教養学部教授の阿部彩さんによれば、子供の貧困が言われ出したのは2008年頃。その後何の施策も講じられないまま、年々悪化しているという。
「児童のいる親世帯の平均所得金額は673万円ですが、母子家庭だと243万円。実際に生活の困窮でみると、ガス電気料金が払えなかったり、家賃を滞納している世帯は、母子家庭で15%、2人親家庭でも5%ぐらいいて、家計が厳しいなかで子供が育っている状況が見えます。そうした子供は健康状態が悪かったり、学力に悪影響が及んだり、いじめられたりして、不登校になりやすくなる。そのなかで自己肯定感がなくなり、社会のなかで希望や誇りを持って生きていくことが難しくなっていきます」(阿部さん)
それはかつて戦争に負け、一面焼け野原の下で、貧しいながらも等しく上を目指して努力していた頃とはまるで違う。今の子供たちの親世代は、格差が大きくなるなかで育った。格差社会で富める者は富み、貧しい人はさらに困窮していく──。
「考えてみれば貧困の連鎖は当たり前で、学力も低く、高等教育は親の負担が大きいとなると大学へは行かせられない。すると就職先も制限されます。社会に階級ができ、それが固定される。格差が大きい社会は人々の信頼度が低くなり犯罪率も高くなる。今や社会全体にとって、子供の貧困は大きな社会問題になっているんです」(阿部さん)
前出の慈恵病院がこども食堂を設立したのには大きな理由があった。慈恵病院の蓮田健副院長はこう話す。
「うちは『こうのとりのゆりかご』のほか、『SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談』という電話相談も実施しているのですが、そのなかではっきりとわかったのは、困っているお母さんたちの背景にあるのは経済的な問題が大きいということでした。