今年から8月11日の「山の日」が祝日として施行される。昨今の登山ブームで増加した登山人口は、2011年の東日本大震災や、2014年の御嶽山噴火の影響もあり2割程度減少したものの人気は変わらず。週末になれば、登りやすい低山には大勢の登山者が詰めかける。健康にいいと考えられている登山だが、実は、突然死のスポーツ種目の上位5位に入っている。
登山による疾病予防、健康増進効果は科学的に認められている一方で、実は体に悪い面もある。そこで、あまり目を向けられていない登山による突然死のリスクについて、イモトアヤコのマナスル登頂や、登山家・三浦雄一郎氏のエベレスト登頂にも帯同した日本人初の国際山岳医で、北海道警察の山岳遭難救助アドバイザーも務める大城和恵さんに聞いた。
「登山は運動療法として適切に行えば、動脈硬化予防になります。また、筋力の保持を目指せば、高齢者のロコモ(運動器の障害)などの予防にもなりますし、心のリフレッシュもはかれます。登山を運動療法として有効に使えれば健康にいいと言えますが、限度を超えてしまうと、体に悪い方向に働いてしまいます」(大城さん、以下「」内同)
山岳遭難死因の3大死因の1つが「心臓死」。中高年の心臓死は、ほぼ全例が心筋梗塞とされている。
「3大死因は『心臓突然死』、『外傷』、『寒冷傷害(低体温症と雪崩)』ですが、北アルプスでは外傷が多く、富山では春や秋に雪崩が多いなど、山域によって順位は若干前後します。ですが、そういった山の違いを除いても、心臓死だけはどこの山でも一定の割合で起きています。外傷は捻挫などの軽傷も含みますが、心臓発作を起こした人で救助要請した人は、ほとんどが重症なので致命的ということです。そういう意味では、心臓突然死は身近で怖い死因と言えます」
なぜ登山は、心臓死のリスクが高いのか。
「登山の初日からおおよそ3日目まで、交感神経の活性化が起こって体の緊張状態が続くので、血圧が上がり、脈が速くなり、心臓への負担が高くなります。高血圧の人、動脈硬化のある人、心臓病のある人には、心臓発作の危険が高まります。また、水分補給を適切にしないと血液がドロドロになり、一層、血管が詰まることになります。初日は体の緊張が特に強いので、日帰り登山は常に危険があるということです。これは毎回意識しておいた方がいいですね」
初めての登山がいきなり富士山という無謀なイベント登山をする人も中にはいるが、多くの人はハイキング程度の低山から始めることだろう。数百mの低山から気楽に登り始める人は多いが、例え600mの低山でもリスクに変わりはない。
「低い山でも心臓突然死はもちろんあり得ます。むしろ低山は気温も高くなるので、熱中症や脱水になりやすいんです。汗をかいたり呼吸による水分蒸発で、思っているよりも水分は体から出て行きます。脱水になると血液もドロドロしますから、心臓突然死の一番の原因である心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなる。低い山は距離が短い分、短時間で下山できて負担は減りますが、体調管理や装備を侮りやすいリスクもあります」