何かの行為に歯止めが利かなくなり、場合によっては日常生活に破綻をきたしてしまう「依存症」。最近では、野球賭博、闇カジノ、覚せい剤など、スポーツ選手らの起こした事件が報じられる度に大きくクローズアップされている。
問題視されているのは違法行為ばかりではない。パチンコや酒、たばこ、コーヒー、ネットゲーム、買い物など、日常生活に溶け込んだ合法的な行動に至るまで、ハマればすぐに「○○依存症」と見なされる風潮さえある。
「依存症に悩む人が増える背景には、住みにくい社会のしくみがある」と指摘するのは、『依存症のすべて』著者で行動薬理学に詳しい廣中直行氏(医学博士)だ。同氏に“究極の依存症対策”を聞いた。
──ギャンブルやネットゲーム、買い物などの依存症に共通している問題には、過度にハマり過ぎて借金までしてしまう「経済的破綻」が挙げられる。
廣中:依存症は経済問題と密接に結びついています。特にギャンブル依存症の特徴は、費やす金額がだんだん膨れ上がること。なけなしの生活費をつぎ込んで、借金をしてもなお「別の日に取り返せばいい」という欲求に脳が支配されてしまうのです。
そして、借金が借金を生むことで心の健康も保てなくなり、家庭内暴力、うつ病、不安障害など、合併症の深刻度合いもどんどん増していきます。
しかし、某企業経営者が何億円も賭博に使って事件になりましたが、あれは会社の公金を使ったから問題になったのであって、無尽蔵にお金があればギャンブル依存の問題は起こらない。そう考えると、脳科学や医学だけでは片づけられず、社会的な要素も考慮しないと難しいのです。
──社会の現状でいえば、私的な賭博は禁止する一方で、パチンコや競馬、競輪のように合法的なギャンブルは身近にある。
廣中:娯楽として楽しんでいるのなら良いですが、不安なときや落ち込んだとき、不愉快な気分のときにギャンブルをするのはよろしくない。昔から、バクチにハマるのは仕事にあぶれた人でした。薬物依存症も貧困層に多いことなどを考えると、依存対策は失業対策と無関係ではありません。
極端にいえば、日本人みなが定職に就くことができ、やり甲斐のある事が普通にできる社会でなければ依存症はなくならない。いまは老後の生活に余裕がなくなる「老後破産」も社会問題になっています。このままでは高齢者の依存症患者も増えていくでしょう。
──酒やたばこといった、法で認められ販売されている商品は、経済的に困窮することもなく適量を楽しんでいる人も多い。にもかかわらず、自主的とはいえ、テレビCMが自由に行えないようにするなど規制を強化するのはやり過ぎではないか。
廣中:確かにそういう声はあるでしょう。なぜこんな風潮になったのかと考えると、それは「子供に悪影響を与えることはすべて悪い」と、子供基準で物事を考える社会になり過ぎたからではないかと思います。“大人だけの娯楽”が失われてきたのではないでしょうか。
本来、ゲームや嗜好品は大人が特別な時間・空間を楽しむための小道具でした。ヨーロッパの古い小説を読むと、お父さんが仕事から早く帰ってきて子供を寝かせた後、夫婦で着替えてお芝居に行ったりパーティーに行ったりと夜の社交場に出掛けるシーンがたくさん出てきます。
「大人の夜の文化」ではお酒やたばこ、ギャンブルはあくまでも添え物。香りや味を楽しみ、人との会話を楽しみ、依存ではない贅沢な遊び方をするものでした。今はそういうふうに自立した大人が少ないのかも知れませんが、嗜好品の存在価値を文化の観点から見直してみるのは悪いことではありません。