プロ野球は勝つことが最終目標。しかし少し事情が異なる組織がある。それが二軍だ。一軍選手の調整、故障者のリハビリに、若手の育成。これを成績と両立させる。その難題に今、往年の名選手が挑んでいる。
巨人・斎藤雅樹氏、中日・小笠原道大氏、オリックス・田口壮氏ら熱意に燃える新人二軍監督たちと同時代に鎬を削った大物がいる。日本ハムの田中幸雄監督である。
「試合で勝ちながら若い選手が成長してくれるというのが理想。基本的に二軍は上が求める選手を最高の状態で送り出すのが仕事ですが、淺間大基のように二軍からの推薦で結果を出してくれる選手も少なくない。そういう活躍はやはり嬉しいし、他の選手の励みにもなりますね」(田中監督)
そのうえで、今年2年目を迎えた田中監督は、他の監督とは少し違った視点を持っている。
「野球の技能はもちろん、野球以外の人間性や礼儀も、二軍にいる若いうちに教えられたらと思っています。野球をやっている時はいいかもしれないが、終わってからの人生の方が長い。そのためにも最低限の礼儀だけは身に付けさせたいと思っています」(同前)
現役時代は感覚でプレーしてきたという田中監督。
「まだまだ采配は未熟だし、選手が伸びるためのベストの方法を見つけ出せないでいる。監督としては半人前ですが、負けたくない気持ちは人一倍強い。その気持ちで采配したいし選手にも接したい」(同)
【たなか・ゆきお】1967年、宮崎県出身。1986年に日本ハム入団。強打を武器に2000本安打を達成し、22年間ファイターズ一筋で活躍した。2007年に引退後は2011年から2012年まで一軍打撃コーチを務める。生涯打率.262、287本塁打
●取材・文/鵜飼克郎 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年6月24日号