習近平は最近、「習沢東」と呼ばれるほど、毛沢東を模した自身の偶像化や軍権掌握といった権力の一極集中を進めている。その独断専行ぶりは50年前の文化大革命発動当時の政治状況を彷彿とさせる。
毛沢東がトウ小平や劉少奇ら“実権派”を叩き潰したように、習近平も上海閥や共青団閥の力を一気に削ぐ動きを加速しているが、その最中、習近平を震えあがらせる事件が起こっていた。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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北京の党幹部筋は「習近平の増上慢は極まっている。まるで、絶大なカリスマ性を発揮した毛沢東のように振る舞っている」と前置きして、次のように指摘する。
「反腐敗運動で、最高幹部を失脚させるなど、これまでの指導者ができなかったことを敢然と実行したことで、庶民の習近平人気は高まってきたが、ここにきて、習近平を称える歌や漫画をユーチューブで流すなど、個人崇拝の機運が高まり、逆に庶民は白け始めている」
その一つの表れが3月から4月にかけて、ネット上で、習近平に対する辞任要求の書簡が公表されたことである。
まず、3月4日に新疆ウイグル自治区主管のニュースサイト「無界新聞」に「習近平は辞職せよ」と勧告する謎の書簡が掲載された。この書簡の差出人は自らを「忠実な共産党員」として、習近平を「独裁者」と批判し、経済運営の失敗をあげつらっている。
この辞任要求で注目されたのは、書簡の公開時期だ。年に1回しか開催されず、世界中からメディアが取材に訪れる全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の前日に発表されたのだ。この書簡の主は用意周到に習近平に辞任要求を突きつけたといえよう。
さらに、3月下旬にも再び習近平の辞任を求める書簡がネット上で公開された。この米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイト「明鏡新聞網」系のブログに辞任要求書簡を投稿したのは「171人の中国共産党員」と名乗るグループだ。
「習同志の独裁と個人崇拝が党内組織を混乱に陥れている」と批判したうえで、中国共産党中央に対して、「習同志を一切の職務から罷免し、党と党員を救済するよう要求する」と強く訴えている。書簡は投稿主が自らすぐに削除したもようだが、ネット上で一気に拡散した。
前出の党幹部筋は「最高権力者の辞任を求める声が立て続けに公になるのは異常事態だ。これは習近平の個人崇拝や言論統制に党内からも強い反発が出ているためだ」と明かす。このため、中国当局も事態を重視し、この事件に関与したとして20人以上が逮捕され、その家族も身柄を拘束されているという。