いま、東京では「羊肉を食わせる店」が人気を集めている。牛、豚、鶏などと比べれば日本では食材としてメジャーとは呼べない羊だが、これほど世界中で食べられている肉はない。
牛や豚と違って宗教的な制約を受けないため、アジア全般、中東、アフリカ、ヨーロッパ……と各国で独自の調理法が確立されているのである。
東京の羊好きを虜にしている有名店が、神田の『味坊』だ。2000年にオープン。黒竜江省出身の梁宝璋氏が故郷・中国東北地方の羊料理の数々を提供する。名物は「羊肉串」という串焼き。炭焼きの羊の香ばしさをクミンやごまの風味が引き立て、ピリッときいた一味唐辛子が食欲を増進する。これほどビールに合う串は他にないかもしれない。
「羊肉串は中国の街中の屋台でたくさん売られていて、いわば日本の焼き鳥に近い国民食。ビールや白酒を飲むと食べたくなるね。クミンがきいた羊はパクチー(香草)と一緒に食べる。パワフルな香りの個性がぶつかり合って、相性が最高なんです」(梁氏)
極寒の中国東北地方で羊をよく食べるのは、理由がある。
「漢方では、体を温める食材とされている。子供の頃は真冬になるとマイナス30℃ぐらいの日もあったけれど、羊を食べると体がぽかぽか温まった。昨年末にオープンした姉妹店の『味坊鉄鍋荘』では、夏季限定で羊の内臓のスープを出します。
中国では朝ご飯に食べられていて、寝起きの低い体温を上げてくれる。夏場は冷房で体が冷えるから、羊のパワーを実感してほしいね」(梁氏)
内臓と羊肉が一緒に煮込まれたスープは滋味深いコクがある。現地風にパクチーをたっぷりかけ、生にんにくをガリッとかじりながら、胃袋に流し込みたい。