大阪府阪南市で住宅街から離れた幹線道路沿いに立地する保育施設の計画が大きな波紋を広げている。それは、阪南市が進めている保育園と幼稚園を一体化した認定こども園「阪南市立総合こども館」(仮称)を作ろうという計画。老朽化した公立の幼稚園と保育園を1か所に集約し、0~5才児600人規模の施設にするというものだ。これほどの大きな施設は全国でも珍しい。
ところが約1万3000人分の反対署名が提出され、計画の難航は避けられない様相を呈している。
阪南市の計画によると、新しいこども園の建設予定地は、ヤマダ電機阪南店跡。6800平米の広大な敷地に鉄筋2階建ての建物が建っている。これを耐震補強した上で、市内にあるいずれも老朽化した公立の4つの幼稚園と3つの保育園を集約させるというこの計画は、昨年12月に市議会で明らかにされ、3月には予算案が可決された。開園予定は2018年。
園庭や、地域の子育て世代の交流に使えるエリアなども整備する計画になっている。施設が遠くなった地域には、通園バスを用意するという。
集約化が決まった7施設は、築38~50年で老朽化が進むほか、南海トラフ巨大地震の津波浸水想定区域に立地する保育園があるなど、移転も含めた建て替えや大規模な改修工事が急務になっていた。
市の試算では、7施設をすべて建て替えると総事業費は約25億7000万円となり、うち約20億3000万円を市が負担することになる。一方で、こども園を新たに整備するとなると、総事業費は約15億3000万円となり、市の負担額は約6億5000万円にまで軽減される。
そこに使われるのは住民たちの税金。こども園への統合は経済メリットに優れているという説明は聞こえがいいが、反対する市民は多い。署名を集めた「阪南市住民投票を実現する会」の伊藤儀和代表はこう説明する。
「阪南市には海も山もあり、自然環境に恵まれています。そういった中に、幼稚園や保育園が点在しているのです。それに比べると、旧ヤマダ電機跡地の環境はよくないし、面積も合計より少なくなります。しかも、600人もの子供たちを一か所に集めると、インフルエンザなどの感染症は一気に広がり、健やかに発達するという子供たちの“発達権”が損なわれます」
確かに、建設予定地の目の前は、交通量の多い国道。近くには、大規模スーパーやドライブスルーを併設した24時間営業のファストフードチェーンもある。とくに朝の出勤時や帰宅時間帯は交通量が一気に増える。そこに子供を通わせる母親の自動車、送り迎えのバスが加わることになるのだ。600人ともなれば、その数も相当だ。
「私は自転車に子供を乗せて通うことになります。以前、ヤマダ電機があったときに、店に入ろうと左折してきた車と子供を乗せた私の自転車がぶつかりそうになったことがあって…。交通量が多いとそういうリスクも高まると思う」(保育園に3才の子供を通わせる29才の女性)