仕事の奥深さにはまったという新津春子さん
“世界一清潔な空港”を支える清掃のプロ、新津春子さん。彼女が見てきた清掃の先にある“やさしさ”とは?
イギリスにあるスカイトラックス社が実施する国際空港ランキングで、2013年、2014年、2016年と“世界で最も清潔な空港”という栄冠に輝いた羽田空港。その羽田をきれいにする清掃員700人を統括するのが、「日本空港テクノ」で働く新津春子さんだ。
彼女を一躍有名にしたのは、2015年に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)。名だたる著名人の放送回をさしおいて、同年最高視聴率を記録した。空港を歩くだけで、握手を求められる。90才のおじいちゃんからファンレターも届く。この1年で本を4冊出版した。
新津さんは職場の対人関係に悩んだスタッフが会社を辞めたいと言った時に、「会社は納得したかもしれないけど、教育係だった私にはまだわからない。納得するようにちゃんと説明しなさい」と、一喝したこともある。
「なんで自分だけで抱えちゃうのよ。上司に話したりして、誰かと一緒に考えればいいじゃない。その人が嫌だからって逃げていたら、次の会社でも同じことになる。どこまで頑張るかは本人次第だけど、何かあったら私に直接言ってくればいい。そう言ってあげた彼は、まだ一緒に働いています(笑い)」(新津さん)
このように、新津さんははっきりものを言う。それゆえ、職場でも新津さんしか、なしえない伝説を持っている。同社、総務部の生沼深志さんは言う。
「清掃の腕は完璧だし、まったく手抜きや妥協をしないので、会社全体のモチベーションを上げているのは事実です。
お酒を飲むのが好きで、よく飲みに行こうって誘われるんですが、乾杯した後に、“私、今日1000円しか持ってない”って言うんです(笑い)。おごる羽目になるのに、それでも行ってしまう、不思議な求心力がある人です(笑い)」
ただ、肝を冷やす場面もあるそうだ。
「誰に対しても平等で、日本人にありがちな遠慮というものがありません。社長の部屋にアポなしで、ガチャッと入るのは新津だけですね。しかも“あんたとは話できない!”って怒りながら出てくるのも新津くらいです(笑い)。そのあと社長が“…新津の好物って何かな?”とご機嫌うかがいに来たこともありましたね」(生沼さん)
そんな時、新津さんは笑いながら、「まだお肉おごってもらってないんだけど」と、やり返す。テンポのいいやりとりは漫才のようでもある。
「“今必要”な道具があるから、急いでお願いしてるのに、会社からは要望書を出してと言われるんです。それで、要望書を出しても、何人も偉いかたのハンコが必要で、1週間くらい時間がかかるし、戻ってきたところで100%OKという保証もない。その時点でダメなら、もうその汚れはどうにもならなくなっているんです。どうすれば会社に利益があるか、社長ならわかるでしょって言いたくなっちゃって(苦笑)」(新津さん)