これに対して、海ではルールがまったく異なる。船舶は、他国の領海であっても無害通航権が認められている。無害とは、漁業や鉱物資源の採掘をする、海洋調査活動をする、ゴミを廃棄するなど沿岸国にとって有害な活動をしないということだ。通航とは、動いているということだ。停船する、碇を降ろすなどすると、無害通航ではなくなる。

 この無害通航権は、軍艦に対しても認められている。北朝鮮の駆逐艦が、伊豆半島沿岸12海里内のわが領海を航行することは、国際法違反には該当しない。唯一の例外が潜水艦だ。潜水艦は、当該潜水艦が帰属する国家以外の外国の領海を通航するときは、浮上して、所属国の国旗を掲揚しなくてはならない。国際法では、船舶は所属する国家の国旗を掲揚することが義務付けられている。国旗を掲揚しない船舶は、「海賊船」と見なされる。

●文/佐藤優(作家・元外務省主任分析官)

【PROFILE】1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。SAPIO で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。

※SAPIO2016年8月号

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