女性の職場復帰は芸能界においてもひとつのトレンドといえるかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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テレビで「F2層」と言えばご存じ、35歳から49歳までの女性視聴者のこと。でも、今私が注目しているのは、F2層の「女優」です。
若い時に脚光を浴び、いったんは結婚・出産でお休み。子育てが一段落した段階で、もう一度職場に復帰。そしていよいよ主役の座に返り咲く現象が、昨今、目につきます。
今放送中のドラマで言えば、『ふれなばおちん』『朝が来る』でそれぞれ主役を演じる長谷川京子、安田成美。そして8月には鈴木保奈美も主役で登場……。30~40代になった彼女たちは、若い時の人気で知名度が高いだけに、復帰しやすいのかもしれない。
しかし、だからと言って、「中年の女優」として成功するかどうかはまた別の問題。平凡な主婦役こそ、ムズカシイ。犯罪に手を染める中年女の役はまた、複雑。年齢が持つ奥行きを味わいに変えていくには、小手先の演技では無理。役者としての技術や才能はもちろん、思考力、人生の苦労も糧にしてしまう力、そして「決意」も問われるのではないでしょうか。
その意味で、F2女優への復帰は、大きな勝負。打って出る甲斐もあるし、失敗の危険もまた半端ないのでは。
●中年ハセキョーの挑戦
「もう女を捨てたと思っていたのに……」。年下の男にトキめき、恋に落ちるアラフォー主婦・上条夏。『ふれなばおちん』(火曜午後11時15分 NHKBSプレミアム)は長谷川京子が主役・夏を演じる、まさしくF2ど真ん中ドラマ。
夏は、Tシャツにパーカーを羽織り化粧っ気なく髪の毛はバサバサ、「女を捨てた感」満載の主婦という役どころ。性格もちょっと天然の入った三枚目の2児の母。ある日、夫の職場で働く年下男性が社宅の隣に引っ越してきて、モーションをかけてくる。背後から抱かれたり、いきなりキスされたり。
ところが。長谷川さん演じるこの主婦、キスされてもぼぉー。即座に反応しない。宙を見たまま、まるで居眠り? 身ぶり手ぶり、存在感がなんとも宙ぶらりんで、視聴者側はこの人物をどう情報処理をしたらいいのか、とまどう。そんな主婦いるのかとイライラしてしまう。
敢えて「ボケ」を狙っている? 女を捨てた主婦が恋に落ちる変化のプロセスを、際立たせるため? あるいはシリアスな不倫ドラマにしたくない、ちょっとコミカルなテイストにしたい、という意識なのか。
それともモデル出身、正統派美人として人気を集めた過去の自分を、三枚目に落とし込むことで変えようとしているのか……などと、いろいろ余計なことを考えさせられてしまいます。長谷川さんは今37歳、実生活でも2児の母。しかし、美人女優という過去のシッポを引きずっているためか、ダサい格好をしスッピンだからといってそこらへんの主婦にはとても見えないし、かと言って、かつての美系オーラも消えかかり、残念ながらものすごく中途半端。
人物設定も曖昧。夫が帰宅し夕ご飯を食べている間、妻は会ったばかりの独身男の部屋へ上がりこんでシャンパン飲んで呑気におしゃべりなんて、ありえないのでは。誰もダメ出ししないの?
このドラマを見て痛感しました。F2女優として生きていくためには、本気で捨てる「決意」が必要なのではないか、と。「覚悟」というものが一番重要ではないか、と。かわいいキレイ、スレンダー、美肌、アンチエイジング、そういった女優的自意識すべて丸ごと「捨て去る覚悟」があって初めて、F2女優の演技の一歩が踏み出せるのではないか、と。